スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

明けても暮れても。

保奈美は、ずっと焦っていた。
小説を書いてもう十年にはなる。最初のうちはお遊びだったが、投稿した最初の作品が佳作をとったことから自分にはこれしか生きる道が残されていないとさえ思うようになった。
締切が間近で、仕事から帰ってすぐに執筆にとりかかる。
帰宅して、お風呂を沸かして、カップラーメンにお湯を注ぐ間にパソコンを起動する。
ブルーライトを寝る直前まで浴びると体に良くないらしいが、そんなことは構っていられない。
誰もいないアパートの一室。
ラーメンをすすりながら、画面をにらむ。
会社では「清楚」キャラでいっている保奈美だったが、前髪を髪留めでとめて、すっぴんになった彼女はもしかしたら会っても気付かれないかもしれない。
肌荒れがひどいので化粧も分厚いから余計だ。
ラーメンを机に置いて、腕を組む。
「なんで、こいつは結婚したいんだ?」
恋愛小説を書いているのだが、主人公の心理状態が全くわからない。恋愛の先に結婚という流れは自然な展開だとは思う。色々な試練を用意するものの、どうしてあきらめないで相手の男を追い続けるのだろう。
自分で設定したにも関わらず保奈美には想像がつかない。
ひとつ疑問に思ってしまうと全く進めない。
「……私だったら諦めるのになあ」
呟いた言葉に「そんなこと言うなよ!」と答えてくれる者はいない。

深夜十二時。
風呂でまた、寝てしまうかもしれない。
ラーメンを食べきって、とりあえず作業を中断する。

翌朝、会社に行くと同僚の喜多さんが明るい挨拶をしてくれた。
いつみてもかわいい女の子で、ボロボロの保奈美とは雲泥の差だ。
柔らかな茶髪をシュシュでひとまとめにしてある。柔らかい印象の子。対して保奈美は黒髪をまっすぐ流しているだけだ。
赤い縁のメガネも保奈美をきつくみせている。
「喜多さん、結婚ってしたい?」
給湯室でコーヒーをいれている彼女に唐突な質問を投げかける。
彼女は一瞬、きょとんとした表情をしたがすぐに嬉しそうな笑顔になった。
「保奈美さん、結婚するの?!」
「違う違う。ただの話のネタよ」
「……なーんだ。おもしろくないの。私は結婚したいよ」
「どうして?」
「子供欲しいから」
「じゃあ、誰の子供でもいいんじゃない。営業の杉下ならいつでも結婚してくれそうだよ。子供ほしいってさ」
「えー、タイプじゃない!」
杉下は婚活していることを隠さない男性だった。色白で目が細く、実家暮らしをしている。
お弁当を母親に用意してもらっていることからマザコンの噂がある。
「好きな人の子供がほしいから結婚したい。理由には薄いわ」
「取り調べみたい」
喜多さんは笑った。

そして、自分のピンクのマグカップを片手に去り際に言った。

「結婚してもいいくらいに相手を好きになってみたいよね」
「…………」

なるほど。結婚という言葉に縛られていたが、要は人を深く愛したいのがみんな目的にあるのか。
その延長線上に結婚があるだけで。
保奈美は解決の糸口がみつかってガッツポーズをとった。

数日後、彼女がまた別の壁にぶつかるのだが、それはまた別のお話。


おわり。
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

▲ページトップに戻る

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。