春の季節に思うこと。

……俺はこの春って季節が嫌いだ。

第一に花粉症だし、絶対体調崩すし、年度末とかあるし、とにかく慌ただしいのも嫌だ。
そういや、好きなあの子に告白してふられたのもちょうど、桜が街を彩っている季節であった。温かくなって人が溢れ、みんなが幸せそうに見える。
春はその幸せ度の格差が浮き彫りになる気がする。
憂鬱な者とそうでない者と。

春って季節で俺がそれの勝者になった年は数えるほどしかない。
そうだな、小学生くらいにまで遡るんじゃないか。春休みの宿題少なかったときの。

好きなあの子っていうのは毎年いた。なぜ、毎年いたのかというと春に告白してふられて切り替わるからだ。タイミングを見計らっているわけではないが、周期的に春に告白する習性が俺にはあるらしい。

たばこの煙を空中に漂わせる。
誰もいない屋上。会社の屋上はドラマとかで観て憧れていたがいざ、それを利用する立場になってわかった。大してドラマが生まれる場所でもなんでもない。
うちの会社は全面禁煙で、ほとんどの社員がたばこを吸わない。
肩身が狭い思いをして吸うのは嫌だと次々に脱落していく中、俺は惰性でたばこをやめられないでいた。
昨年の冬にしばらくやめていたが結局、春のストレスで毎年やめられないでいる。
会社の人事異動、昇格、降格、歓送迎会……めんどうだ。

やっぱ、嫌いだなあ。春は。


鼻から煙を吐き出す。
どこからともなく淡いピンク色の花びらが舞ってきた。
会社の前の通り道にずっと連なる桜並木。綺麗といえば綺麗だ。花粉症はだいぶマシになってきてはいるが涙目でそれらを眺める。

携帯の着信音が鳴った。
間抜けなメロディはドクタースランプアラレちゃんのオープニングだ。ちょっとオタクくらいがモテるご時世だから仕方ない。実際のところ、アラレちゃんは数えるほどしかみたことがない。うちの家は食事中はテレビが禁止であった。
たまに観たらいつもキャラメルマンシリーズの話でおもしろくないと子供ながらに感じていた。

「キャラメルマンっていたじゃないですか。お坊ちゃまくん。あの子、アラレちゃんと結婚しましたよね」

心の声に返事があって驚く。
隣りを見ると地味な女が立っていた。ああ、〇〇課のやつだったかと、ちょっとして思い出す。
黒縁のメガネに今時珍しく染めていない真っ直ぐな黒髪。猫背ぎみの背。年齢不詳。
たばこを口にくわえて火をつけた。たばこ吸うのか。

「わたし、お坊ちゃまくん結構好きだったんですよ」
「ほー」

会話する気もないので適当に相槌をうつ。俺は会話するやつは選ぶ。

「春ってわたし嫌いなんですよね。花粉症ってわけでも嫌な思い出があるわけでもないんですけど」

勝手に地味子が話し出す。手すりに腕をおいて霞む景色をみつめる。
まさか、共通点があるとは思っていなかったので俺は眉毛をあげた。

「幸せになりたいですね」
「…………」

たばこの灰をアスファルトの上に落とす。視線を落としてしばらく考えた。

「そうだな。俺も幸せになりたいのかもな」

会話ともいえない会話だがとりあえず、そう返事をした。
言葉にするだけで、何故か肩が軽くなった気がする。絶望とかほど遠いほどのちょっとした憂鬱。

少し、何かが晴れた気がした。



おわり。
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