ライターロイド(星新一賞投稿作品)

今日は本当に天気もよく気持ちのいい日ですね。
投稿作品を携えて、郵便局へ行ってきたのですが、その際、少し歩きました。薄着で人々がゆっくり歩いている人を眺めたり、小さな花のついて雑草が茂っていたり、白いティッシュのような花(←感性ない)たぶんモクレンとかですか、が咲いてたり桜が少し開きそうだったり、幸せな気分となりました。
最近忙しくて何も焦る必要がなく歩いているだけでそんな気分となるのですから、締切って怖いですね(笑)
ともあれ、私は私を好きになれるよう投稿を続けたいと思います。
ひとつ終われば次。思いつかなくなるまで書けばいい。

同人誌が適当な表記あって友人に、窘められたのでそれ直して、本当に完成までこぎつけないといけませんね。
早く通知こないかな。

ところで三月半ばに結果のでた星新一賞。みごと落ちたのですが誰にも見られないならこの話は消えゆく運命なので、せめてここに載せておこうと思います。
どれ、落選作品みてやろーじゃないかという奇特な方がいらっしゃったらぜひ。

「ライターロイド」




俺は小説家だった。目の前にいるのは、編集者の男、N氏だった。こうして小説家と編集者が机を挟んで喫茶店で打ち合わせするのは、ロボット産業が特化した今の時代では珍しいことだった。過去の著名な作家らの作品を取り込み、新たにその作家特有の描き方で新作を生み出すロボットたち。膨大なデータを人工知能に取り込んだロボットらは、将棋ではプロ棋士に勝利し、レオナルド・ダヴィンチを模したロボットは新たにモナリザを超える新作を描いた。ベートーベンを模したロボットは運命を超えた苦悩を作曲してみせた。鉄の塊である彼らが絶望や喜びを理解している。
数学や科学では大昔からコンピューターが勝っていた。しかし、今では芸術面でも人は彼らに負けつつある。文学もまた例外ではない。太宰治や、夏目漱石が現代に蘇り、本人が描くはずだった未来の物語をたたき出す。ロボットらは病気もスランプも陥らない。これほど万能なものがあるだろうか。
「何故、あなたは毎回作品を考える度にスランプに陥るのですか?」
「…………」
 N氏の感情のない質問に俺は答えず、腕を組んで受け止めた。確かにスランプは毎回新作を描く度にやってくる。人間作家はそこが難点である。
「主人公の感情がわからなくなると俺は展開が考えられなくなり、キーを叩く手がとまってしまう」
「次の新作は不倫ものでしたね。近年では全くみられなくなった類のものです」
「古臭くて悪かったな! でも、読者が待ち望んでいるのはドロドロとした恋愛のもつれだろう? ベッドシーンあり、修羅場あり、純愛、葛藤、全てが入っている! 最近のやつはロボットがパターンにはめ込んだものばかりでつまらん!」
「その通りです。先生の作品をみんな楽しみにしております。私は疑問に思うのですが、先生はどうして、こうも感情を中心に考えつくのですか? 物語では、主人公の妻が包丁を持って不倫相手を殺そうとします。何故ですか」
「おいおい、嫉妬もわからないなら編集者の意味がないだろ。いいか、妻は夫とずっと長年連れ添ってきたんだぞ。恋は消えたが二人の間に『愛』はあった。愛の裏には憎しみがセットになっているもので、ひっくり返せばすぐに顔を現すものだ」
「妻は夫のことを嫌っているのかと思えるほど最初、冷たくあたっていました。寝室も別々では同居人にすぎません」
「確かに、二人の心は離れはじめていた。なのに、別れないのは、まだ愛を信じているからだよ。昔とった杵柄、違う、過去の栄光? まあ、そういった何かだ」
「抽象的で曖昧で意味不明です。質問が変わりますが、恋の裏には何がセットされているのですか」
「ん? それはあれだよ……青春?」
「先生の答えは一貫性がありません。愛と憎しみは相反する要素をもつ単語で組み合わせておきながら、恋と青春では似たような意味合いを連想させます」
「ぐっ」
 俺は思わず、喉をつまらせた。タバコを吸って落ち着こうと考えて胸ポケットを探る。
「ここは禁煙ですよ。今となっては喫煙場所を探す方が困難ですが」
「あー、くそっ。苛々する」
 N氏の指摘に頭をかいて、珈琲のカップに手を伸ばす。貧乏ゆすりをして気分をごまかす。N氏の視線が足元に行ったのは一瞬で、すぐに目の前に紙面に手を伸ばす。
「ところで、どのあたりで詰まっているのですか?」
「妻が夫を怪我させて発狂、精神病棟行き。不倫していた女は主人公の男に今がチャンスだ、一緒に逃げようと言う。俺がつまっているのは、この流れだ。主人公か不倫女どちらかに妻に会う機会を設けるべきだ。主人公が誰とくっつくのか、選ぶ道によっては終わり方が変わってくる」
「なるほど。妻は脇役ではなく、精神を病んでから生きてくるわけですね。本来の主人公も変わってきますね」
「妻の感情面を前半で描く必要があるな。過去を知れば愛着が湧くものだろう」
「過去を知るだけで愛着が湧きますか? 私にはよくわかりません」
 N氏は淡々と答える。しかし、今の台詞は声に悲しみの色が混じっていたように感じた。目を伏せて、机ではないものを見ていた。N氏の顔の筋肉は動かない。
悲しそうに見えたのは、やはり、気のせいかもしれない。
実は、N氏は編集ロボットではないかと踏んでいる。作家だけではなく、編集者に数々の名作の知識を詰めておけば、作家と共にアイディアが生まれやすい。ここ数年でヒットしたマンガやアニメも人の心理を読み込むのが上手なロボットが編集に加わっていた。そのうち、娯楽商品はロボットが作るもの中心になるかもしれない。俺は創作する楽しみを忘れる気など毛頭がないが、人間の作品が売れなければ仕方がない。
ロボットに勝つには予想できない感情展開、人の心に訴える何か。しかし、人間である俺に足りないのは知識量と論理的で合理的な思考。物忘れも酷い俺に変わって、専ら知識を提供するのはN氏の役目だった。しかし、N氏は感情面が欠落しており、話の矛盾は指摘できても、心の動きを読むのは下手だった。コミュニケーション能力も低い。
いつだってN氏は無表情だった。打ち合わせするにあたり、いちいち、感情の機微を説明しなくてはならないのが面倒だが、お互いの無い物を補えるのがいい。
「主人公が妻に会いに行けば、二人は夫婦関係を修復できるものですか」
「おかしくなった妻は精神病棟の窓から海を眺めている……男は過去を語りかける。楽しかった頃の思い出だ。不倫女のことを忘れて語れば、本人も忘れていた愛に気付く」
「簡単にはいかないと思います。男が記憶障害に陥ったとしか思えません。会話もなく、働いたお金だけを得る妻を忘れることができたなら、男はよほど慈悲深いのでしょう」
「じゃあ、不倫女と妻を会せるか。それも面白いかもしれないな。不倫女が自ら去る展開もいい」
「どうして去る必要があるのですか。不倫女にとって主人公を独占できる最初で最後のきっかけではないのですか」
「不倫女は主人公の妻に殺されそうになっても、やはり、弱り切った女を見ると同情してしまうのさ。女は共感することで成り立っている」
「なるほど……」
 N氏がしみじみと頷いた。そして、新作は不倫女と妻が精神病棟で会い、和解、主人公の元を不倫女が去るという、あらすじで決定した。主人公の男が悲しみに暮れるが、妻が数年ぶりに自分に向けた笑顔で納得して終わる。
「さすが、先生ですね。考えることが違う」
「だろ! よっし、次もヒット間違いなしだ!」
 N氏が珈琲のカップに口つけた。ロボットは基本的に飲食しない。喉仏が動くのを眺めて彼がロボットという考えが間違っていたのかもしれないと考えていると、N氏がそっとカップを置いて言った。
「さすが、ロボットは考えることが違いますね」
「――え?」
 聞き間違いかと思った。それともN氏の言い間違い? N氏は俺の顔を覗き込んだ。黒い瞳が俺を映す。N氏の瞳には何の感情も宿っていなかった。
「判断がつかず困ったといった顔をしていますね。私は言い間違いなどしておりません。あなたがロボットであるにも関わらず、まるで人間のように振舞うので感心していたところです。あなたを褒めることは自分を褒めることも同じですね。何せ、あなたのマスターは私ですから」
「は? さっきからお前は何を言っているんだ……ロボットはお前の方じゃないのか、人の感情も読めないような奴が人間なわけがないだろう!」
 N氏は「感情の起伏が激しいのは調整する必要があるな」と漏らした。俺は机を叩いた。カップの揺れる音、店内のざわつきが一瞬、静かになる。
「マスター? お前が? ふざけるな。俺は小説家の中山敏で――」
「中山敏は私の名前です。あなたがNですよ。やはり自己認識機能にバグが生じていましたか。しかし、自分を人間と思っていた方が良い作品が書けそうですから、そのままにしておきましょう」
「やめろ、もう、やめてくれ!」
「ここは店内ですよ。落ち着きなさい。そうだ、手を貸してみなさい」
 N氏……だと思っていた目の前の男が俺の手首を掴んだ。すると、手首に力を込めてあらぬ方向に回転させると、手首が簡単に取れた。痛みは……ない。手首に繋がる幾本ものコード。それは人の血管のようにびっしりだった。
「手首部分はよく壊れるので、すぐに修理できるよう簡単に取り外せるようになっています。パソコンのキーを叩くあなたにとって、一番壊れやすい部位です」
「う、うそだろ」
 怒りや苛立ちが消えて、虚無感が包み込む。俺は頭を抱える。頭に浮かぶ過去の映像、これ全てが中山本人のもので、俺のものではないという。確かに、どこか白昼夢のように実感がない。過去を思い出しても何の感情も生まれてこないのだ。
確かに、最近は物忘れが酷かった。それもバグによる記憶障害だというのか。自己認識も間違っている。俺はロボットなのか……N、ではなく中山が淡々と述べた。
「あなたは、はるか昔に感情を失っていなかった頃の人々をモデルにして作った、“ライターロイド”と呼ばれる創造性ロボットなのです。昔の人間は感情があるからこそ、戦争や殺人、暴力を行ってきました。政府は何年もかかって生活を平等にし、負の感情を失くす教育プログラムを行ってきました。その結果、安寧の生活は手に入れましたが人々は欲望や本能だけでなく全ての感情を失ってしまったのです」
「そんな、つまらない世の中になってしまったのか……」
 中山の説明を受けて、俺は何とも言えない想いから涙を流した。それは透明の涙ではなくオイルまじりで茶色に混濁したものだった。
「どうして、このタイミングでオイルが漏れたのでしょう。まさか、あなたは悲しくて泣いているのですか」
 慰めるわけでなく、本当にただ疑問に思ったことを中山は尋ねている。俺は涙を流す理由を頭の中で検索するがヒットするものがなく答えることができない。
「自分がロボットであることがそんなに悲しいのですか」
「違う」
「壊れてしまったのですか」
「……違う」
 しばらく、俺の鼻をすする音だけが二人の間に降りた。沈黙はどこまでも続くかのように思えたが、それはほんの短い間のことで、中山が声を潜めるでもなく口を開いた。
「N、私は妻と不倫していた女を殺しました。どうすれば許されると思いますか」
 俺は顔をあげて中山を凝視した。彼はまるで、小説のあらすじを検討しているときのように、他人事のように自分の罪を告白した。
「どういうことだ」
「二度もいう必要があるのですか。認識しづらかったのですか。私は妻と不倫していた女を殺しました。野蛮人のような彼女らを解放するためです。昔の人間、特に女はやっかいだ。物語の中だけで十分。私があなたをマスターするに当たり、より、人間性を出すために記憶の設定を私の過去をインプットしました。あなたが作る話は私の過去です」
「悲しみの理由はそれだ……」
「?」
 俺は納得した。
ロボットの方がまだ感情が豊かである今の世界に絶望して、涙を流した。人々は大切な、失ってはいけない心を失ってしまった。中山は感情を忘れた現代人でありながら、不倫をした。しかし、そこにきっと感情はなかった。だから、殺した。
「死体はどうした」
「移動時に使うワープ装置を途中で切り、粒子として空中にばら撒きました。人なら安全装置が働き粒子は復元されますが、生存反応を失った場合は物として判断するので、現れることはありませんでした」
 現代の移動手段のひとつであるワープ装置は一旦、人や物を原子に分解して、回線を通り、移動場所で再び元通り復元される。移動途中で、トラブルがあっても人の場合は、危機回避のためにコピーをとっておく。だが、物体には安全装置が働かず移動している途中で失ってしまうこともある。死体はそうやって原子に変えられた。
「まるでSFじゃないか」
「小説にできそうですか。人々が普通に使っている物でも、先生の目からだと特異なものに変わりますからね」
「罪は許されることはない、永遠に……」
 中山が俺の台詞に押し黙る。物知らぬ子供のように首を傾げた。
 そして、この場にそぐわない、機械的な声で尋ねた。

「どうして、泣いているのですか、先生。その感情も小説にできそうですか?」



おわり。

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