大原くんと小松原さん、中原くんもいるよ。

彼女の名前は「小松原」さん。
そして、彼女が好きな男子生徒の名前が「大原」。
その、大原が唯一、心を許しているのが「中原」

――俺、中原ツトムが好きな女の子は小松原さんだったりするので、この『大中小原っぱトリオ』のもつれっぷりはクラスの名物であった。

× × ×

あたしの名前は小松原アカネ。
自分でもうんざりするくらい普通すぎる女の子。成績が悪いわけでもないし(良くもない)顔が個性的もないし、性格も特に浮いたものでなく、クラスの中ではキャラが何人かかぶってる。
でも、好きな相手だけは誰ともかぶってなくて、友達に相談しても「え、マジ? やめときなって」と止められるほど。
それだけ相手の男子は変わっている。

どうして、あんなにヒットポイントが多い人をみんな放っておくのかわからない。

ヒットポイントとしては、その①「秀才」いつだってテストの成績は上位。いじわるな数学の先生がいて「頭の体操」とか言いながら用意する難問をいつもスラスラ解いてしまう。
先生は解説すらせず、解かれた後いつも悔しそうな顔をするのだった。
ひそかにその行いはクラスの心をすっきりさせた。

その②。高校二年生であれば髪を染める者が続々と現れる中、彼は黒縁メガネに黒髪を貫いていた。けれど、ダサイとかそんな印象はなく、清潔感があった。
制服はいつだって、ぴしっとしており、着崩したりしない。
乱れることが嫌いな彼はいつも背筋を伸ばし、本を読んでいる。

この本を読むところも、ヒットポイント③
難しそうな本をいつも読んでいて、あたしにはちんぷんかんぷん。クラスの友達からしたら「犯罪心理学とか経済書とかちょっと危なくない?」とのこと。頭よさそうな本だと思うのになあ。
放課後、忘れ物があって教室に戻ったとき、ひとりで夕暮で染まる教室で本を読む彼はとても美しかった。

彼の名前は大原レイジといった。

× × ×

「君は……僕のことが好きなの」
「え、あ。うん。そうなの!」

素直な告白だったけど、僕の心は全く心躍るようなことはなかった。
逆に憂鬱な気分にさえさせた。彼女は気付いていないだろうけど、クラスでもなかなか彼女は目立つ存在なのだ。
明るい性格で裏表がない。それだけで、友達もたくさんできるだろう。
彼女の視線の先に皆が注目するので、僕としては関わりたくない存在であった。

「どうして、僕」
「いっぱい理由があるよ! まずメガネとか、本読むところとか! 他にもたくさん――」
「つまり、君は僕の中身を全く知らないのに好きになったんだね」
「最初は誰だってそうだよ。そしてお互いを知っていくんじゃないのかな」
「中身を知ったら君は僕のことを嫌いになるかもね」
「そんなの、わからないじゃない」
「――わかるよ」

拒絶の気配を感じとった彼女は押し黙った。
そして、そのまま教室を走って出ていく。悪いことをしたのかもしれない。
そっとため息をついたとき、教室の扉が開いた。

× × ×

「おい、小松原さん泣いてたぞ! なにか言ったのか?」

俺は大原の机を叩いた。大原の黒目が俺を映した。俺の瞳は薄い茶色だったけど、こいつの目は本当に真っ黒だった。
大原がふ、と笑う。

「僕のことをよく知れば君はきっと嫌いになるはずだ、と忠告しただけだよ」
「つまり、彼女をふったわけだな」
「おもしろくない話だな、全く」

巻き込まないでくれとでも言う風に手を降り、大原は手元に視線を戻した。
俺が彼女のことを好きなのを大原は知ってか知らずか、酷いことをする。
どうして、こんな男なのだと俺は怒りを覚えた。

大原の本を取り上げる。

「おい。大事な話をしているのに、どうして本を読もうとする!」
「時間は無限ではないからだよ。一生に何冊本が読めると思っている。大した量じゃない。僕はできるだけ、学生の今の間にたくさん本を読んでおきたいんだ」
「学生の間にしかできないことは他にもたくさんある」
「恋愛とか言うんじゃないだろうな。恋愛は本でもできるのに」
「――お前、死んでいるな」
「君は愚かだよ。恋愛なんてものはしてもしなくても、支障がないのに」
「恋愛しなくちゃ、結婚できない、結婚しなきゃ、子供ができない。子供ができなければ少子化だぞ」
「え、少子化?」

きょとんと大原が目を見開いた。そして、口に手をあてて笑った。

「おもしろい発想をするな、中原は。話が予想もつかない方向に流れる」
「アホで悪かったな」
「誰もアホだとは言ってない」

馬鹿にしている風であったが、確かに大原は楽しそうだった。そういや、こいつのこんな顔初めてみたかもしれない。

「君、下の名前は?」
「……ツトムだけど」
「わかった、ツトムだな。覚えておくよ」


× × ×


――ってな感じで、それぞれの想いがあれぬ方向に向かっているわけで。でも未だに俺と小松原さんは接点がない。
それどころか、大原が初めてクラスメイトを下の名前で読んでいるのを聞いて、小松原さんはショックを受けていた。
いやいや、ただの友達だから。小松原さんが気をやむことはないよと直接言ってあげたいのだけど俺にはそんな甲斐性はない。

「小松原さんは本当にかわいいよ、マジで天使だよ。闇にファンが多いのわかるわ、俺。この間のテスト最悪だったけど、小松原さんに関する問題だったらある程度こたえられると思うんだけどなあ。まあ、お前に言ってもこの気持ちわからないよな。あ、何でも分かると言ってもストーカーって意味じゃなからな。いちクラスメイトが知りうる範囲で、だ。興味の対象だったら完璧だよっていうことの証明で」

「ツトムの話はどこに流れていくのか、わからないところがいいな」
「要領を得ないってわけか」
「――楽しいってことだ」

こいつに好かれても、あんまし嬉しくないな。
でも、ま。


楽しそうにしているこいつを見る小松原さんの顔が好きなので、いいか。




おわり。

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