私が好きな人は私を好きでなくて、私を好きな人は私が好きではない。

――あの人は私のことが、たぶん好きだ。

携帯のコラムで読んだことがあるのだけど、話すときの距離が近かったり、やたらと会う機会を設けようとしたり、贈り物をくれたり、とにかく優しかったり。

私は本屋でバイトをしている。大学生とかじゃなくて、ただ実家にいるのも嫌だから一人暮らしをとりあえずして、とりあえず結婚とかできたらいいとか思っている、きっとダメ系の女の子。
女の子はいずれ結婚とかするのだから、仕事がんばらなくていいや、どうせなら好きなものを触っていたいと思って、本屋のバイト。でも、結構大変で、また辞めたいとか考えていたりする。

そんなとき、現れたのが本社から派遣された社員の「佐々木さん」。すらりと背が高くて、社交的、スポーツ観戦と家電が好きなんだって。本は実用書しか読まないタイプで、私が好ましいと思う点が少ない。

その佐々木さんと仕事でかかわるうち、佐々木さんの視線が他と違うような、連絡が個人的に多いような気さえしてきた。勘違いだったら、ごめんなさい。いや、むしろ勘違いでいいよとさえ思う。
勘違いかなって思うときもある。仕事で忙しいとき、彼は自分のことで手一杯になる。
挨拶さえしないときがある。
それはそれでいいのだけど、あとでメールで「今日は忙しかったですね。お疲れ様でした」とメールをくれたりする。私はほっとしたり、落胆したり、自分の感情が読めなくて最近、夜も眠れない。

でも、私の最終ゴールは結婚なので、佐々木さんがこんな私を好きでいてくれるなら願ったり叶ったりだ。
なのに、歯止めがかかるのは、「水曜日の男」だ。

水曜日の決まって閉店する一時間前くらいに立ち読みしにくるスーツを着たサラリーマン風の男性だ。
いつも一人で小説コーナーで立ち読みをしている。
「ちょっと不思議な小説」が好きなようで、売れ筋を読まない。
でも、活字好きなら知っている有名どころをいつも読んでいたりするので、私はレジに彼が本を持ってくるたびに「これ知っている、おもしろよね!」と言いたい衝動をおさえる。

会話したことはない。水曜のレジは私が独占しているので、いつも対応しているけど声をかける勇気はなかった。私が好きな人は、年齢も、どこに住んでいるのかさえも、彼女がいるのかさえも不明。

佐々木さんとは違って視線があったことなど一度もない。
彼はいつも目を伏せて本の表紙を眺めているのだ。無表情といってもいい。

仕事できっと疲れているせいだと思うのだけど、バイトの仲間にそのことを言えば「え、あの人がタイプ? 地味すぎじゃないの」と言われたり「何を考えているのかわからなくて怖いよ」とも言われた。

でも、彼の選んでいる本はどれもサイコ系ではなく心が温かくなるものばかりだ。その本を読んだことをがある私が言うのだから確かだ。


いつものように、水曜日の夜。あの人に思いを馳せてレジに立っていると、自動ドアが開いて彼が訪れた。
疲れたような顔をしている。
ところが、今日はいつもと違った……店内に見知った顔がいたようだ。相手から声をかけられる。

「西条くん! 久しぶりじゃないの」

快活そうな女性が彼の背中を叩く。あの人は西条というのか、初めて知った。心にメモしておく。
女性とぼそぼそと話しているのに耳をそばたてる。
水曜の男は声が小さい。女性は代わりに声がでかい。と、バイトの同僚である女の子がやってきて「あ」という表情をした。
「お姉ちゃん、来てたの?」
「――え」

あの女性の妹だったの、あなた。
ということは、ということは、水曜日の男とあなたの姉は知り合いということ!?

「あんたがバイトしているって聞いて暇つぶしにね。実家帰ってきたし。それにしても、西条くんと会うとはね」
「こんばんわ」

同僚の女の子があいさつする。水曜日の男……西条くんも頭を下げた。
私も便乗して加わる。

「西条くんはね、あたしの元彼なんだー」
「へー、そうだったの」
「…………」

私は姉妹の会話に軽くめまいを覚えた。この目の前の快活そうな本を読まなさそうな人と彼が恋人同士。
だめだ、気があわない気がする。憶測でしかないけど、少し心が離れていく。

「いつも、うちの本を買っていただきありがとうございます。では」

事務的な会釈をして私はレジに戻った。心が空っぽになった。いや、まだ彼のすべてを知ったわけじゃないよ、始まってもないよ、でも、水曜日の男が初めて頬を赤らめてましたけども。まだ気があるんじゃないの、やめてよね、本屋で恋のセカンドチャンスとか。

「はー……」
「どうしたの、重い溜息ですね」

横に立っていたのは佐々木さん。私はこの人と付き合うのかな。この人とスポーツ観戦とかするのかな。子供とか産んじゃうのかな。

佐々木さんが言った。

「最近さあ、布団のダニを吸う掃除機とか出てて凄く欲しくて。天気の日に干すよりいいみたいですよ」
「さいですか……」


――うーん。やっぱり、もうちょっと保留で。
水曜日の男をもっと知ってからもいいかな……あの人がすごく酷い男だったら、あなたに乗り換えるよ。てか、その間にいい子現れたら、私みたいな打算的な女放っておいて次にいっていいからさ。

佐々木さん、いい人だから。

「佐々木さんは……好きな人とかいるんですか」
「え、なんですか、いきなり」
「いえ。少し気になったもので」
「――いますよ」
「そうですか。ありがとうございます」

先を聞くのはやめておいた。聞いたからには、私は変わらねばならない。
佐々木さんもその先は言わず、誰かに呼ばれてその場を後にした。


みんな、どうやって恋愛とかしているのだろう。たくさんの物語を読んでも私には全く理解できない。
だって、相思相愛どころか、


私が好きな人は私を好きでなくて、私を好きな人は私が好きではない、のだから。
ここからどう転じていけばいいわけ?


おわり。





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コメント

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共感!

読みました。めっちゃ共感です!このストーリー。
こういう、恋とも呼べないような感情の相手に勝手にがっかりしたり、いいなと感じたり、もしかしてこの人私に気があるの?みたいな微妙な人を妙に警戒したり、めっちゃあります。
もう、私の恋愛パターン人生の縮図をうまーくドラマにしていただいたかのような錯覚を起こしちゃいました。(笑)

Re: 共感!

こんばんわ、サワムラさん!
「共感できる」のお言葉ちょうだいしちゃいましたねー。
このような主人公を書けるということは、私もそういう考えを持っている、の証明ですね。
……恥ずかしい!
そうなんですよね、恋愛にもなってない話ばかり得意なんです。
読んでいただきありがとうございます。
私のことじゃないけど、私が最近考えていることを散文にしてみました。
暇つぶしになったのなら幸いです。
実はサワムラさんは私よりも経験値が上のような気がしているのですが、もだもだしている私と共感できるとこもあったりして、親しみがわきます。
散文の内容が変わったら心境の変化だと思っていてくださいv



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