あなたとせっかちな私。

私は元来、せっかちな性分であった。

例えば、料理を作るにしても、「しばらく冷ましましょう」や「丁寧にゆっくりしましょう」と雑誌に書いてあることを無視して、結局は味がいまいちだったことは数しれず。
仕事でも保留事項で置いてある懸案を先走り、手っ取り早く解決しようと単独プレーで動き、先輩に怒られた経験も数え上げたらきりがない。
ちなみに、私はいち事務員なので毎日のノルマを達成できたらそれでいい。
焦って業績をあげる営業職ではないのだから、何故焦る必要があるのかと同僚に言われた。

確かにそうだ。

その傾向が顕著にでるのが「恋愛」だった。

私には現在好きな人がいる。
その人は、地元のFMラジオ局のDJだった。
一人暮らしのマンションに帰宅して、すぐにラジオをつけると大抵の時間その人の声が聞こえた。毎日の習慣で聞いていると自然にその人に興味がわいてきた。
かかっている曲は知らない洋楽ばかりだった。中には、「この曲いいな」と思えるのが多く、ネットで検索してCDを買ったりしもした。洋楽の知識も増えた。

その人の情報はネットで知ることができた。
写真と経歴なども公式HPにのっていてイメージ通りの爽やかな青年だった。
地元なので公開放送も実は見学にいったこともある。もはやストーカーの域だ。

この前、ファンレターと共にプレゼントも手渡しした。すると、はきはきとした声で「ありがとう」と言ってくれたのでそれだけで私は更に彼のファンとなった。

この人のこと好きかもしれない、から好きと自覚し、そして嫌いになるのも早い私。
まだ、彼に関しては好きの状態が続いているかもしれないけれど、今からラジオ局行って待ち伏せするので、私に関する扱い次第ではどうなるかはわからない。

邪見にされればもちろん嫌いになるだけだ。

携帯にイヤホンをさしてラジオ放送を聞きながら放送が終わるのを入り口で待つ。
ローカル番組なので、聞いている人が少ない。
したがって出待ちも私だけだった。

そうこうしているとドアが開き、彼が現れた。
写真と違って今日は黒縁のメガネをつけていた。

「あら、僕のファン?」
「そ、そうです」

向こうから切り出してくれて良かった。私は彼の前に立った。
そして息を吸い込み、思い切って言葉を吐き出す。

「私、あなたのラジオ放送毎日聴いて声をまず好きになりました。仕事で疲れているときも声を聴いたら癒されます。プレゼント渡したときの笑顔忘れません。私の名前は〇〇、年齢は24歳、仕事は事務職、趣味は音楽鑑賞と読書、料理は下手くそ、掃除はわりと得意です。結婚してください!」
「――え?」

空気が固まる。
わかっている、面識ない女からいきなり告白されたら大抵このような反応になるだろう。
会話が苦手で一方的に言いたいことを最初に出し切るのが私だった。
軽快な会話を誰かとしたいと願うのだけど、いつも早口でまくしたてる。
駄目だなあと、結果が起きてから気付く。

今回もすでにやってしまった。
彼が口を開く。

「僕、結婚しているのだけど……」
「な、なんですって!?」

結婚しているかは、ネットに掲載されていなかった。
毎日放送きいていてもその手の話題には触れなかったので、いないものだと思っていた。
私のせっかちな性分がいかんなき発揮され、大事故を起こしてしまった……。

「ごめんなさい、その、知らなかったんです」
「いいよ。気持ちは嬉しい。結婚してなかったら付き合っていたよ。ありがとう」

社交辞令なのはわかっている。
わかっているのだけど、笑顔がこぼれていく。

「好きって思ってくれていたのはいつから?」
「えっと、二週間前からだと思います」
「行動力あるねー。で、もう告白? ちょっと焦ったんだね。相手のことを知ってからでも遅くはないと思うよ。なかには冷たくあしらう人もいるかもしれないから気を付けた方がいい」
「すいません……」
「怒ってはないよ。ただ、想っている期間は苦しいけど、楽しいはず。すぐに結果を求めては恋愛に浸れない」

彼の恋愛相談コーナーは人気だったことを思い出した。的確なアドバイスだ。
やっぱり、好きだなこの人と思えた。

「僕を好きでいてくれるならまた、告白してきてね。それまでに僕のことを勉強するように」
「え、だって結婚しているんじゃ……」
「どうでしょう」

黒縁メガネの奥で瞳を細める彼。
嘘なのか、本当なのか。
私は混乱していたので、彼が爽やかにその場を後にしたのも追いかけはしなかった。

後日。
ネット(これしか調べるのがない)によると、彼は離婚していたらしい。それもつい二週間前。
私が好きになったのもちょうど同じときだったけれど、放送の声はいつもと変わらない調子だった。
彼も何かを焦って、関係を壊したのかもしれない。彼がバツイチだっとしても、私は一向に構わない。不謹慎にも離婚に対して喜んでしまった。
ここでせっかちにも、再び結婚してくれと言っても失敗に終わりそうだから、順序を踏むことにした。

連絡先を渡して彼から連絡してきたら交際スタート。
でなければ、私はずっといちファンのままでいよう。

何もない日々が過ぎて、もしかしたら、別の人を好きになるかも。
でも、その人にもいきなり告白しない。私は恋愛に浸るのを覚えたからだ。


せっかちな性分は変わらないけど、私は恋愛を楽しむ自分を少しだけ好きになれた。




おわり。


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コメント

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No title

素晴らしい行動力ですね。
1つのドラマをみているみたいでした。

Re: No title

初めまして、こんにちは、甲辰さん!
コメントありがとうございます。
私もせっかちなんですが、このような行動力は持ち合わせておりません(^_^;)
ドラマのようだと言って下さり嬉しいです。
オチが弱いですけど、ドラマ展開な散文作っていきたいです。
甲辰さんのブログも覗かせていただきました、楽しい記事がいっぱいですね。
また覗かせていただこうと思います。
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