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業を背負い、罪深き人間。

今生で、起こる様々な不幸な出来事は、全て前世の行いが絡んでいる。

仏教的な考えだけど、あたしは結構その説はありじゃないかなあと思っている。
だって、そうでも考えないと理不尽じゃない。

鼎(かなえ)蓉子は、踵の折れたハイヒールをみつめながら過去へと思考を飛ばした。
頭のてっぺんに冷たいものを感じる。
おまけに、雨も降ってきた。

× × ×

小学校のころだ。
妹の、千沙はお風呂場にいたクモをほうきで拾い、外へ出そうと苦心していた。
あたしだったらシャワーで流すのに……面倒だから手伝わなかった。そうしたら母が、
「千沙は優しい子だね。お姉ちゃんもちょっとは千沙みたいに優しさがあればいいのにね」と言った。
この母親は馬鹿かもしれないと幼心に直観した。
案の定、母は父と娘二人を残して新しい恋人の元へ去って行った。
母は愛想がよくて優しい。誰からも好かれる美人な人だったからしょうがないのかもしれない。妹もしっかりその血を受け継いでいる。そこに邪心はなく、ただ純粋に好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、良く言えば素直に行動する人たちだった。
そういえば、クラスにいた男子……名前は確か宮前梓だったかがよくあたしに向かって言っていた。
宮前梓は関西から引っ越してきたノリ重視の苦手なタイプの男子だった。

「お前、いつも何かんがえとんねん。ぶさいくなやっちゃなーノリ、ほんま悪いなあ」

あたしはひねくれている性格のため本心は表に出ないし、日本人らしく横に並べ空気を読め主義だった。
でも、意見を素直に述べないからこそ怒っている風にも見えたし何を考えているかわからない子という認識になった。本当は空気を読むために、おどおどしながら他人を観察していたに過ぎない。
もちろん、そのような性格、好きではない。

虫も殺さない妹。そう、あたしは小さな命を切り捨ててきた。だって、深く考えるのは面倒だもの。
でも、その小さな積み重ねが業を生むのかもしれない。

――最近になって、そう思う。

× × ×

中学校になって軽いいじめにあった。たぶん、あたしが無愛想で生意気な顔つきをしていたからだ。
例え、顔つきが生意気であっても愛想さえよければそんなことにはならなかったと思う。
でも、あたしは母のような他人に媚びるような愛想は好きではなかったから孤立を選んだ。
空気を読む能力はあっても、ちょっとしたことがきっかけでそうなることがある。
つまらない学校生活を送っている傍ら、愛想のいい妹の千沙は、テニス部で県大会まで上り詰め、まさに学校の英雄的存在となっていた。あたしは姉妹であることが恥ずかしく思った。
憎らしくも思った。
その感情が更なる業を積むのだ。
とめようにもとめることができない。ひねくれた性格はもう治らない。
千沙はよく言った。

「お姉ちゃんのそういう性格がダメなんだよ。なんでも深く考えすぎって!」

そうね。あなたのように何も考えずに生きれたらどんなに良かったことでしょう。
どうして、あたしはこうなのでしょうね。

× × ×

高校の頃、好きな人ができた。
ひとつ上の近所に住む先輩。吹奏楽部の人だった。
あたしは美術部の幽霊部員だったので接点は「近所」というだけだった。よく帰りのバスでみかけるようになった。よく一人で帰っているから声をかけるチャンスはいつでもあった。
千沙はあたしより学力が足りず、偏差値の低い別の高校だったから比較されることはなかった。
高校では少し自由になった。
けれど、あたしは目撃してしまう。
回覧板を届けただけの千沙と彼が仲良く談笑しているのを。
別にこれだけじゃあたしも焦らない。でも、それから携帯の番号を交換し、テニスを高校になっても続けていた千沙の試合に彼が応援に来る約束までとりつけていたからには、もう絶望するしかなかった。

× × ×

社会人になって、あたしは家を出た。これ以上、誰かを羨ましく思ったり絶望したり、憎んだりするのは嫌だった。
都会に出て一人で暮らして会社とマンションの往復。不動産関係の経理につけたあたしは別に豪華ではないがそれなりに静かな暮らしを手にいれた。
その折、千沙が例の彼と地元で結婚する連絡が来た。子供もお腹の中にいるらしい。
あたしは高校を出てすぐに就職したけれど、千沙は大学へ通った。
大学でお金が必要とされたけれど、父は一人なら大学へやれると言った。あたしも仕送りをした。
千沙はそこでも何人か彼氏ができたけれど、結局、あたしが好きだった人と結婚することになったようだ。

その頃には彼の未練など当になく、ただ単純に「おめでとう」という感情が湧きあがった。

× × ×

妹の結婚式でおだやかな音楽と共に賑やかな写真たちがスクリーンに映し出された。
二人が出会うまでの過程。青春をおもいきり楽しんで、夫婦になって、たぶん老後もみんなに看取られる。
そう約束されたような明るい未来を感じさせた。

いや、たぶん。あたしもそうだと思う。
暗い人生を歩んではいても、いつかは結婚できるはず。最近は作り笑いを浮かべるようになったよ。
愛想よく、空気をよんで……相変わらず虫は殺しているけれど。

結婚式の帰りは浮かれた気分になれた。
あたしは、スキップしそうな足取りだったけれど、ふいにバランスを崩して惨めにも倒れた。
ドレスは薄汚く汚れた。
ハイヒールの踵が(買ったばかりなのに)折れた。
いつもなら冷静に対処できるのに、あたしはそのときばかりはすぐに立ち上がることができなかった。
雨も降ってきて、ついには目頭が熱くなってきて、雨の中、涙を流しはじめた。
地元の田舎道。しかも夜。道路に車は通っていくけれど、歩道はこの時間誰も通らない。
終電は間に合わないかもしれない。やはり、家に泊まっていくか――幸せな夫婦がいる家に。

余計に悲しくなってきてあたしはしゃっくりをあげて泣き始めた。
とまらないかもしれない。
あたしは、どんな業を背負っているのだろう。たぶん、前世は極悪非道な奴だったに違いない。だって、あまりにも千沙の人生と違いすぎるもの。

このまま道端で眠ってしまおうか――そう、考えたとき。
車のライトがとまった。
路肩に止めた車から見知った顔が現れた。

久しぶりに見る、宮前梓だった。褐色の肌や、つり目がちな目は変わらない。
あたしはこれ以上、痛めつけられたら死ぬかもしれない……そう、考えながらも「あんたも結婚式、参加してたの」と普通の台詞が口から飛び出していた。
宮前は胸に白い花のコサージュ、黒いスーツを着ていた。

「新郎、俺の会社の先輩なんや。車、乗るか?」

びしょぬれでメイクも溶けかけた女を見たら大抵はそう言うだろう。
でも。
その時ばかりはあたしは彼のことをなんて優しいのだろうと思った。


× × ×

ウィンカーの音がやけに車内に響いた。
宮前は小学校の頃と違って「沈黙」を覚えたようだった。いつも何かしゃべっていたイメージしかない。
逆にあたしの方が気を使って話しかけた。

「宮前は会社、地元で就職したの?」
「そうそう。〇×重工業(株)。結婚式でも紹介されてたやん」
「そうだったわね」
「お前は? 都会に行ったというのは噂で聞いていたけど――」

世間話をいくらかして、駅についた。
あたしはいくらか気分がまぎれて終電にも間に合って、先ほどの絶望した気持ちからは解放されていた。
宮前が体を乗り出して、別れ際に言った。

「たまにはご飯でも食べに行こうや」
「そうね」
「いやいや、社交辞令やないで。ほんまに行こうや。これ、連絡先な!」

会社で使う名刺を渡される。裏を見ると携帯の番号が書かれていた。
ってことはこちらが、自分の携帯番号か。

「連絡こなかったら先輩の嫁はん、つまりお前の妹に番号聞くからな。いつまでも泣きそうな不細工な顔しとったらあかんで、じゃあな!」

宮前は最後あたり、顔が赤かった。
あたしはぽつんと駅前に取り残された。

本当に電話していいのかな。
宮前、あたしは業を背負った女だよ。

つまり、悪い子なんだよ。
あんたみたいないい奴、きっともったいないよ。

「……でも、ありがとう」

あたしは数年ぶりに、もしかしたら生まれて初めて、小雨となりはじめた夜、穏やかに微笑んだ。


× × ×


それから数日後、「びびるわ、ほんま! いつまで待っても電話来うへんし!」と怒ったように宮前から電話があったのは別の話。







おわり。



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コメント

非公開コメント

再びお邪魔します☆
このお話、いいですね!
最初と最後のシーンが繋がる話ってすきです。あと、主人公の人生を振り返っているところも、中々すき。
虫もころさない妹(でも要領よくて悪い意味でも正直者)と、迷わず虫をころしてしまう主人公の比較も、より主人公の心情が分かりやすくてよかったです。
私とは全く違うタイプの性格の姉妹(でも虫はころすかも?(笑))ですが、幼き頃からのエピソードが順に入っているので、彼女たちの心情はきっとこうなんだろうな、と理解出来ましたし、小さなことに感じる「罪」にも業を背負って生きてしまっている感覚の主人公を見て、世の中には(特に日本人)こういう考えの人ってけっこうたくさんいるんだろうなぁ~なんて感慨深く思いました。

雨に振られてドレスが汚れハイヒールが折れるところは女性としての自信のなさや主人公の惨めな気分を象徴してくれていますね。
そこに、昔のイメージとはギャップのある知人男性(しかも同級生!)が登場。主人公が望む適度な距離感で接してくれる。
ってあたりは萌えました(笑)

全体的には明るい話ではないけれど、終わりがきゅんとしていて好みです!
宮前くんと今後発展しなくても、こういうかけがえのない友を得られて、主人公は特してると思います!(宮前くんのちょっとした強引さも理想的☆)

私の理想とする、オトメなちょいきゅん小説を読ませていただき、ありがとうございました☆(笑) 

PS→こないだは私の小説(もどき)にコメありがとうございました。ところでこのお話との共通点を見つけちゃいました。それは「結婚式での出会い」。異性と、同性、って違いはありますが。(笑) 筆者たちの年齢がストーリーに反映された結果って気がしました。

Re: タイトルなし

サワムラさん、タイトルと内容があまり合ってない暗めの作品読んでいただき、
しかも細かい感想いただきありがとうございます!

何やら心理的に分解して読んでいただくと「なるほど、そうだったのか」と改めてこの話の構成がわかりました。
うちの妹が特に虫を殺さない素直な性格でして、私は、この話の主人公のような性格なのですが、風呂場のクモを妹が逃しているときにこの話が浮かびました。
業の話は法事で聞いたものです。そうそう、サワムラさんの話と「結婚式での再会」は共通点ですね。
よくある設定ですが結婚式の再会から話が展開するの結構好きです。逆に地元の葬式で旧友らが再会する話も好みだったりします。物語のスタートを感じさせますよね。
年齢的にキュンとしてしまう設定なんでしょうね~。
宮前くんと主人公はうまくいくのかは、わかりませんが、くっつくまでを描く話は好きです。
サワムラさんの心を少しでも動かせたなら書いて良かったです。
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