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別れ話。

「とどのつまり、お金がございません」
「……は?」

彼女に別れ話を切り出され、俺はたじろいだ。
最初は趣味があわないだの、すれ違う生活に疲れただの、あなたの性格が気に食わないだの、と言い訳をしていたが、俺たちはなんだかんだ言って合っていた。
たぶん、彼女となら結婚だってできる。俺は基本的に飽き性なのだが、彼女に関しては全くそれとは別次元だった。人間を飽きる飽きないで識別するのはよくないが、よく聞くではないか。
美人だけど飽きた。飽きるくらいなら不細工の方がいいじゃないかとかなんとか。
彼女は別段、美人でも不細工でもなかった。日本人の典型的なあっさりとした地味な黒髪の女の子だった。
化粧によっては化けるだろうが、それは大抵の人にいえる話で結局、なにが言いたいかというと顔とかじゃなくて俺は彼女を愛していたのだ。

それなのに。

「お金がないってどういう理由だよ。そこまで困っていたのか。借金でもあるのか?」
「ありません。ですが日々、生きていくで精一杯です。あなたとこうして喫茶店でお茶を飲んでいるお金さえも本当は惜しいのです」
「いつもお茶代くらい払っているだろ!」
「そうですね。いつもありがとうございます。ですがあなたと会うための服を買ったり化粧品を買ったり香水を買ったりエステに行ったりするのが、大変で仕方ないんです。あ、ジムも行ってます」
「そんなことを影でしていたのか」
「いいえ、嘘です」
「おい!」
「本当のところ、飽きたのです」
「……は?」


思考が浮かばない。
飽きた? この俺がこの子に飽きられた?

「とどのつまり。私はあなたに良く見られたいと不安に思う日々や自分に飽きたのです。それが嫌になったのです。ですから、もうやめたいの」

最後だけは、口調を丁寧口調から改めて彼女が視線をあげて言い放った。
いつだって、丁寧口調だった。それはそういう性格だと思っていたが彼女はずっと嫌われないように気を使っていたのだ。そういうえば我儘を聞いたことがなかった。

「……わかった。別れよう」


彼女は心底、ほっとしたように柔らかく微笑んだ。
悲しげ、でもある。

いや、それは俺の願望だろうか。
俺は財布を取り出して二人分のお茶代をテーブルに置いた。


「別れるけど、数日後俺がやっぱりこの瞬間を後悔しだして泣いてやっぱり別れるのをやめようとか言い出しても君は呆れないでくれよ。今は……とりあえず別れる」
「……」


彼女は何も言わなかった。不思議そうにこちらを見上げていた。
顔が赤くなる。

そうだ、俺は心底、彼女に惚れていたのだ。
不安がらせたのは俺の落ち度だ。

店を出て頭を冷やすことにする。
春の風が強く吹き荒れる午後の日のことだった。



おわり。

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コメント

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ご無沙汰していました!

ご無沙汰していました!!
お久しぶりです。
実はここ数日、高瀬さんの散文小説を読んでいました。
なんだか無性に高瀬さんの物語が読みたくなって。
最近、創作活動をしたいのに、動けないでいる自分がいたので、刺激を貰いたくなったのかもしれません。
かなり前になってしまいますが、1月にメールもいただいていたのに返していなくって申し訳ありません・・・
最近、気持ちの波(浮き沈み?)がやたら激しいです。
この3か月で、同年代の結婚式と退職送別会に出過ぎたからかもしれません・・・。

ところで、このショートストーリー、なんだかとっても気に入りました。
ふたりの会話は突っ込み入れたくなるようなクスクスと笑える部分でもありますが、でもこの彼女の云っている意味はすごくよく理解できます。
友人の異性には「よく見られたい」と思ったりしていないから気楽に自分をさらけ出せるし、だから楽で居心地がいいけれど、気のある相手には見栄を張ってしまうという事実。当たり前の感情かもしれませんが、それがどうも疲れますね。
そして、相手が同じ行動に出ているときもそれがわかってしまって疲れます。あたしの前で無理して合わせようとしないで。って。

最近、そういう出来事があったので、ものすごく共感しました。

この主人公の男性、一旦は彼女の要求=別れ を受け入れたところに好感を抱きました。解放されたかった彼女を理解してくれたんだな、と。
こんな彼氏なら、この後この二人にももっといい関係が築ける日が訪れそうな気がします。

突然の不躾な訪問、失礼いたしました!

Re: 来てくれてありがとうございます。

こちらこそ、こっそりメールしたままブログにも足跡残さず、すいません!

散文は書き散らしているといった表現が正しい代物ばかりですが、誰かに読んでいただき、しかも感想までいただけるなら書いた甲斐があります。
読みたいときに「つまめる」がコンセプトなのでふらっと立ち寄っていただき光栄です。

春は別れや出会いの季節でもありますし、また結婚も多い時期で、浮き沈みが多いのはわかる気がします。
私もなんだか浮き沈みが激しいです。
落ち込む日のが多いかもしれません(^_^;)

この別れる二人の会話の散文はあるとき、ふと言葉が浮かんだのでつらつら何も考えずに書いたものです。
着地点を考えてなかったのですが、結局別れる形となりましたね。
自分でも直前までどのような方向に持っていこうか考えてなかったものです。
気に入られたいと思う人の前では、どうにも上手くいかないものですよね。
友達は垣根が低いように思いますが、恋愛だとお互い深く繋がろうとするから息苦しい、のかもしれないという妄想からです。
また、彼はリベンジに必ず行くと思います(笑)

誰かの創作の糧になりてなら本望です。
サワムラさんの描く物語、続きが出ましたら拝読に伺いますよ!
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