変わらないもの。

バス停で待っている人は、みな同じ顔ぶれだったし、バスは同じ時刻にやってくるし俺もいつもと同じ立ち位置からバスに乗り込む。
割り込む人もいないし、常連ばかりだから順序よくいつもと同じ順番に温かい車内に乗り込んでいく。

そして日によって混み具合は異なるが俺は似たような一人掛けの席に腰かけて風景を眺めながら学校へ行くのが日課だった。学校は別に嫌いじゃないし、つつがなく生活できていると思う。
そこは問題じゃない。

友人Nが乗り込んできたので顔をあげる。別に「おはよう」なんてちゃんとあいさつするんじゃなくて「うっす」だけの合図だけだった。Nとは高校で知り合った友人だった。メガネをかけており、一応秀才で通っているが普段はその片鱗をみせない。つまり用量のいいやつなのだ。

問題といえば、この友人が毎朝、顔を合わせるたびに言うのだった。

「で、件の天川さんにはいつ告白するんだ」
「…………」

面倒だ。
ちょっとしたお遊びでいつもジーパンしか履いてこない数学の女先生が一か月の間にスカートを履くか履かないかを賭けることになったわけだが俺は見事に「一回くらいスカートを履くかも」に賭けて負けてしまった。
数学の吉本先生、頼むから女なんだからスカート一回くらい履いてこようぜ。
Nはずっと観察していてこれまで先生がスカートを滅多に履いてこないことをよくわかった上で「履かない」に賭けたのだ。
俺は観察不足だったというわけ。


負けた代償が好きな人に告白するだった。
俺の好きな子は「天川詩織」名前の雰囲気とは裏腹にガサツで声がでかくて、ガキ大将みたいな子だった。
よく俺は天川に背中を強くたたかれる。別にそれが快感と感じていたわけじゃなく。
この前、いつもオドオドしているクラスの浮いた存在である男子生徒と放課後の廊下で話しているのを聞いたのだ。


「あんた、どうしていつもそんななの。鬱陶しいやつらにバシっと言いなよ」
「ぼ、ぼくは天川さんに、強くないし……」
「あたしも強くないよ。虚勢はってるだけ」
「そうなの?」
「――そう」

別人と思うかの如く、天川は静かに冷静にその男子生徒と話していた。
彼女の過去になにがあったかは知らないが、俺はギャップにやられたのかもしれない。
俺は長い溜息をついてから心の中で「よし」と気合を入れた。


× × ×


バス停で待っている人は、みな同じ顔ぶれだったし、バスは同じ時刻にやってくるし俺もいつもと同じ立ち位置からバスに乗り込む。
割り込む人もいないし、常連ばかりだから順序よくいつもと同じ順番に温かい車内に乗り込んでいく。

そして日によって混み具合は異なるが俺は似たような一人掛けの席に腰かけて風景を眺めながら学校へ行くのが日課だった。学校は別に嫌いじゃないし、つつがなく生活できていると思う。

「で、告白した結果はどうでしたか」
「どうって」

Nが例によって顔をにやつかせて乗り込んできた。
俺がいつもと変わらないのでNは顔を曇らせた。

「ご愁傷様でした」
「いやいや、まだ何も言ってないだろ」
「ということは?」
「いや、失敗したんだけどな」
「……ぶふふふ」

不気味な笑いをNがする。別に失敗してもいい。
俺に対して天川はガサツでガキ大将な一面しか見せてくれないだろうから、それで良かったのだ。
これからだって弱気な彼女は見ることができないのなら、俺が好きな天川詩織は存在していないことになる。

俺の短い恋(になる前に終わった気がするが)は見える景色を少し変える。
冬の灰色の風景に変わりないが空気は澄んでおり、遠くまで見渡せる。朝日が車内に差し込み人々の顔を照らしていく。

今日も平凡でつまらない平和な日が始まる。



おわり。
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