怪力彼女と鉄球奥さん。

藁を運ぶ荷台に寝転がって、流れゆく雲を目で追う。
同じく横で寝転がっている男に視線を向ける。

その男とは、次の街までの足を探しているところで同じ荷馬車に親父に同時に声をかけたことから知り合った。
自分よりも年上であろう、黒髪黒目の男。
知り合いに、こんなに体が絞まっていて鋭い目つきをした男はいない。
一言で言えば近寄りがたい雰囲気だ。
自分はといえば、まだ年若い金髪碧眼の若造だった。
腰に剣をぶらさげてはいるものの、剣の腕はそこそこ。頭脳派だと、人は言う……のは嘘だとしても頭は悪くない。
あと、自画自賛してしまうが美形である。もちろん、彼女はいる。
それも結婚を前提に同居していた彼女だ。
だが、こんなに優しくて顔だちも整っている僕に惚れられていながら冷たい素振りをするものだから「そんなにベタベタするのが嫌なら家を出ていけばいいだろ!」と言ったところで、本当に出て行った。

そんな訳で彼女を追う旅に出た次第だ。
暇なので横に寝転がる男に尋ねる。男は銃士のようで、使い古した長いタイプの銃は藁の上に転がっている。
自己紹介は先ほど、お互いにした。その話の続きをしてみよう。

「お前の奥さん、あれなんだろ。世界救う鍵みたいなやつ? マジなのそれ」
「本当だ」
「…………」

それきり、話は続かなかった。
世界が終わろうとしているとか、そんなのはどうでもいい。
僕は奥さんが傍にいない世界に興味がない。でも、奥さんが僕のもとに戻ったらちょっとは関係してくる話だ。

「次の街にはいるのかねー」
「いるさ。〝鉄球〟が出たという情報は聞いたからな」
「ああ、奥さんの得意技だっけ。空中に突如として巨大な鉄球を出現させて敵を倒すんだよね」
「そうだ」

男の話は荒唐無稽だった。
奥さんは世界を救う鍵に認定(だれにだ?)されていて、それというのも悪を挫く巨大な鉄球を出現させる技を持っているからとか。そういう魔法的な何かをつかえるらしい。
今のご時世、魔法使いは珍しくなかった。だが、ちょっと変わっているといえば変わっている。

「あれ? 次の街の名物、時計塔が傾いてないか?」

僕は荷馬車から見えてきた景色に目を疑う。横の男は目を細めてみてから頭痛がするとでも言う風に額を抑えた。

「家内だ」
「え?」

よく見ると鉄球が振り子のように大きく振りあがり、時計塔を破壊している。
そのまがまがしい黒色をした鉄球はどこから吊り上っているかはわからない。鎖は空に吸い込まれている。
轟音が聞こえてくる。
――とてもじゃないが、あれが世界を救ってくれるとは思えない。

向かうのが嫌だなあと思ったとき。

その黒い鉄球めがけて、たぶん24階ぐらいの細い建物がまるごと飛んだ。
衝突して、鉄球ははじかれて消えた。建物は衝撃で折れ、土煙をあげて落ちていく。
この距離で聞こえる轟音。まるで戦地だ。

「あ、僕の彼女あそこにいる」
「なに!? あのような危険なところ、早く脱出させないと――」
「いや、大丈夫大丈夫。僕の彼女は頑丈なところが取り柄だし。他にもたくさんあるけどね」
「頑丈とかの問題か!?」
「取り柄は、あと、ものすごーく〝怪力〟ってこと。つまり、わかるだろ? あの現場で建物ごとぶっ飛ばせるの僕の彼女くらいだ」
「…………」

鉄球奥さんも驚きだけど、僕の彼女の怪力も結構、驚かれる。
男はしばらく僕の顔をみつめていたが、再び街に視線を戻した。

煙がまた上がる。建物がまた沈んだ。

「……お互い、大変だな」
「大変だなんて全く思ってないよ。愛があれば怪力も笑窪みたいに、かわいく思えてくる」
「俺は鉄球能力をそんな風には思えない。実際、殺されかけたこともあるしな。お前、軟弱そうだが器でかいな」
「お褒めにいただき恐悦至極ー」

ひらひらと手を振る。
荷馬車の亭主が、居眠りから覚めて僕たちを下すまでは彼女自慢をしていようと思う。



おわり。
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コメント

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高瀬さん、あけましておめでとうございます!(ちょっと遅めですが…)
今年もどうぞよろしくお願い致します。
私、今年は高瀬さんを見習って1作くらいはキチンと仕上げて投稿とか出したいなぁと思っております。
ここで書いた決意を忘れずに、頑張って行きたいです(笑)

ところで、このお話、なんだか勝手にですが、高瀬さんが見た初夢なのかな?!と思ってしまいました。
こういうファンタジーな夢って、私はよく見ます。

今年もちょくちょくこちらにお邪魔させて頂きますね☆

Re: おめでとうございます☆

こちらこそ、あいさつが遅れました!
明けましておめでとうございます。

私も誰かの刺激になるよう創作活動、今年もがんばりたいです。
投稿とかもっとできたらいいですね。言うだけ詐欺多いんですけど(笑)

この「鉄球奥さんと怪力彼女」は「ほこたて」という番組の年始スペシャルを見ていて思いつきました。
実は私、ファンタジーな夢をあまり見ないのです。初夢はあまりよく覚えてませんが日常だった気がします。
遅刻する夢とか結構多いので小心者なのだと思います。
サワムラさんは現代小説をよく書かれますがファンタジーも読んでみたいです。

ところで、ブログをちらりと拝見させていただきましたら、ドラマCDの原稿とありましたね!
こちらはまたじっくり読ませていただき感想を述べたいと思います(^^)

今年もこちらのサイトはブログ中心になるかもしれませんが、どうぞよろしくお願い致します。
お互い、充実した一年でありますように!
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