彼女のほか、知る由もなく

あなたはどんな死を望むのだろうか。
親しい人に囲まれた死。
孤独の中、静かに迎える死。
一瞬で死んだことを気付かないくらいの死。

どれにしたって、あの世へ送るための人が必要となる。
何も残らなかったとしても、心や魂を何かしら弔う人が。

長く紺色にも見える艶やかな黒髪を風になびかせた長身の女は黙々とショベルを動かしていた。
高いヒールの長靴をショベルにあてて土を掘る。
一連の決まった動き。
遅々として進まない中、曇り空からは白い雪が舞い始めた。
ショベルを動かす動きと同じく吐き出される白い息が寒空に霧散した。

『ただ、埋めていただければ有り難いです』

依頼人の遺書にはそう書かれていた。遺書が彼女らに宛てた依頼書となる。
葬儀屋と違って、ただ望みどおりに弔う。
それだけだ。
燃やしてくれと書いてるなら燃やす。
灰を海に流してくれと書いてあるなら流す。
埋めてくれと書いているなら埋める。

傍らに置いてある遺体に視線を向ける。
しわがれた老婆であった。しかし、美しく老いた女だった。
いらない物を全て手放した者だけがする穏やかな顔をしている。

彼女を見送る者は誰もいない。
哀れだとは思わなかった。生き物は皆、本来そういうものだからだ。
生まれて死ぬ。
死ぬのを哀しむ必要はない。

けれど、葬儀屋に派手に依頼する者のが多数だった。
彼女らに依頼するのは家族がいなくて仕方なく、と言った者が生前に予約するパターンばかりだ。
だから今回の依頼者のように、死を哀しむ者がいてもひっそりと埋めてくれと頼む者は極わずかだった。

女は空を仰いだ。無数の数え切れないほどの雪が降り注いでいる。
雪に酔いそうだ。

遺体の上にもうっすら積もり始めている。
軽くなった老婆を抱えあげて掘ったばかりの穴に埋める。そして黙祷することもなく、その上に土をかぶせていく。

彼女らは弔い屋と云われていた。
ショベルを担いで依頼のあったところを旅していく者たち。
喪服ではなく白いコートを羽織った彼らに対して「死を冒涜するものたち」と呼ぶ人たちもいる。安いお金でただ、弔うだけ。葬儀をせずに遺体を葬るだけだと。

確かにそういう一面もあるのかもしれない。
けれど、誰もしない仕事を彼らはしているのだった。

少なくとも女は仕事に誇りを持っていた。

「・・・・・・」

こんもりと積まれた土。
女はそれを見届けて、両目を閉じた。曇天の空のような瞳はしばらく閉じられ再び同じ色の世界を映した。
黙祷と呼べるのかも疑わしいわずかな時間だった。

女はショベルを背中のホルダーに仕舞うと身を翻した。
そして胸から地図を取り出して次の依頼場所へと向かう。

長靴がうっすら積もった雪を踏みしめる。
足跡だけが残り、今掘ったばかりの場所は白くなっていった。

いずれ、どこに埋めたのかも解らなくなるのだろう。
女が忘れれば記憶の彼方にすら探せなくなる。


埋められた女はそれが望みだった。






おわり。

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