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静かな正月。

彼は静かな正月が過ごしたいと思っていた。
なので一人、母方の実家に帰省していた。偏屈な爺さん一人いる家には親戚も滅多に立ち寄らない。
家に一人でいては友人らが勝手に酒を持ち込みどんちゃん騒ぎ、食い散らかして片づけもしないで部屋を去る嵐のような正月になってしまう。
それだけはごめんだ。

がらがらと引き戸を開けて彼は足を踏み入れた。本当に田舎にある爺さんの家には土間がありたき火でいまだに風呂を沸かす。墨の香りと畳の香りとあといろいろな香りがした。
この香りでいつも彼は「ああ爺さんの家だ」と感じることができた。

「なんだ帰ったのか」
「なんだはないだろ、言っていただろ」
「……そうだな、まあ隙間ないがこたつにあたれや」
「……?」

爺さんはそう言って台所に消えていった。
隙間がないとはどういうことだ。
そんなに散らかっているのか?

疑問に思いながら土間から靴を脱いでガラス戸をあける。
彼は部屋を見ておもわず絶句した。

わりと大きなこたつには豪華なお節料理が並んでおり酒瓶が並んでおり祝杯のムードだった。
それはいい。だが、知らない顔の人間ばかりがそれを囲んで騒いでいたのだ。
ふすまを取り払い二間続きになっている居間にはたぶん10名以上の男女がいた。

扇子を持って前で踊っている赤ら顔のサル顔の男。
それを見て微笑んでいるふくよかな体をした、妙齢の女性。
華奢な体をしたスーツを着た男は隣りの大柄な大男に酒を注いでいる。がははと笑う彼の隣には若い大学生くらいのかわいい女の子。
その隣には目つきの細い色白の男性が気分が悪いのか口元を抑えており、背の高いすらりとした男性がその気分の悪い彼を介抱している。
その隣にはメガネをかけたおばあちゃんがみんなの皿にお節をわけており、髪を青という派手な色に染めたロック歌手風のパンクファッションの女性はたばこを吸いながら誰かにずっと話しかけていた。
堅実そうな男性が出前の寿司の手配を携帯でしており、なにが癪に障ったのかが顔を真っ赤に染めた着物を着た女性が壁に頭突きをくらわせていた。

「誰だ、この人たちは……」
驚く彼の隣に爺さんがやってきて肩をたたいた。

「聞いてくれ、これがわしの孫だ。みんな仲良くやってくれや」
『うぉーい』
バラバラのことをしているように見えたがみんな爺さんの言葉に反応して片手をあげたり拍手をしたりして彼を迎え入れてくれた。しかし、彼は静かな正月を求めてここまで来たというのにこれではいつもの仲間内の正月と変わらないし、むしろ大人ばかり集まっている分悪化しているような気さえしてきた。
知らない人たちは楽しそうに「麻雀でもする?」とか言っている。
彼は爺さんに耳打ちをした。
「何、爺さんの友人? この人たち親戚じゃないでしょ」
「まあな。友人には変わりない」

にやりと笑う爺さん。偏屈そうに見えたがこういう笑みもできるのかと初めて彼は気付いた。
爺さんは前で踊っている赤ら顔の陽気な男性の前に行った。

ぼうっと立ったままの彼は促されるまま、寿司の出前を頼んでいた男性の隣に入れてもらった。
寿司の出前を頼んでいた男性は幹事っぽいことをしているのか「あと30分後に来てくれるみたいだぞー」と声をはりあげた。ジャンパーを着こんだ堅実そうな男性はまだ素面っぽいので聞いてみる。

「あの、いったいこれは何の集まりなんですか」
「え? 君は聞いてないのか。毎年行っている新年会だよ」
「毎年ですか」
彼は爺さんがそんなことをしているなんて知らなかった。
もっと話を聞きたかったが拍手が巻き起こり彼はそちらに注意をそらした。

「真打登場ー!!!」

自ら「真打」と名乗る美人な黒髪の女性。化粧が濃いが不思議な魅力のある女性だった。
何故かチャイナ服を着た女性は両手をあげてポーズをとっている。
みんな主役の登場だ、とやんややんやと更に盛り上がりを見せた。

「今年の干支が来たところで、みんなそろいましたな。さて、もうできあがっていますが乾杯といきましょう!」
爺さんが酒を掲げた。彼もジュースを掲げる。
それからは「新年会」は盛り上がり彼もいつの間にか酒を飲んでいたのか酔って意識が朦朧となっていた。
朦朧とした意識の中、みんなの顔を見るとまるで十二支の動物のようにそれぞれが見えた。

けれどそれは幻で実際のところはちゃんと人だったはずだ。
そう、彼は思うのだけど意識の片隅で爺さんが「ネコもいつかは許してもらおうな」と慰めてもらっていたのを見たような気がした。
爺さんの名字は確かに「根子(ねこ)」だ。だが頭の中で猫と変換された。
何を許してもらおうの、と尋ねる前に彼は夢の中へと落ちていった。


翌日になると誰も彼もいなくなっておりこたつには爺さんと彼しか寝転がっていなかった。
煙のように消えた人々は食べかすと酒瓶だけ証拠に残していった。それも幻であったならよかったのに後で片づけを手伝わされた。
彼は不思議でならなかった。
爺さんに老若男女問わずあんなに友人がいたとは考えにくい。一人でひっそり暮らしている爺さんとどういう接点があって集まったのか。
わからない。

けれど来年もし、後でやってくる「真打」が黒髪の女性ではなく気分悪そうにしていた目の細い色白の男性なら彼の予想は当たっているに違いない。



彼は来年も爺さんの家で静かな正月を求めて来ようと思った。




おわり。
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