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幸せの在り処。

『ニューヨークでは今年も巨大クリスマスツリーにライトが点灯されました』
「……」

二人の男女がこたつに入ってみかんを食べながら無言でそのニュースを眺めている。
みかんを租借する音がかすかに聞こえるなか、どてらを着た女の方が口を開いた。

「あたしさーこのニュース去年も観たのよ、この部屋で」
「そうだっけ?」
同じくどてらを着て背中を丸めている男が返した。自分のみかんを食べ終わりまた、オレンジ色のネットに入った新たなみかんに手を伸ばす。男は目の前にみかんがあるとずっと食べてしまう性質だった。
そのせいでトイレに何度も足を運ぶことになる。
「春には鯉のぼりを川で洗ってる? 映像見てー初夏には初海開きをしているのを見てー真夏は動物園のシロクマに氷あげているのを見てー秋は清水寺のもみじのやつ見てー冬はそのイルミネのニュース見てるの。んで、そのうちまたこの部屋で除夜の鐘の前でカウントダウンしているNHKのニュース見るのよ」
「お前な、それがどんだけすげえことがわかってねえだろ」
「どういうこと」
「災害とかあったらそんなニュースもしないわけ。ていうか、それはこの地球に生まれて、たまたま日本で、戦争時代でもなくて、お前が先天性の病気でもなくて、普通の暮らしできてて、俺とたまたま出会えて、何事もなかったからニュースをみれているわけ……おわかり?」
「それってさあ、すごいけど下を見たらキリがないよ。だってその『たまたま』の上にセレブで高級住宅で、イケメンと同じニュースを見れている境遇の人もいるのよ」
「それこそ上を見たらキリがない。こたつにみかん、これ以上、望んだら贅沢だ。ていうかイケメンじゃなくて悪かったな」

最後のは余計とばかりに男がすねたように言った。
今はぼさぼさの寝癖のついた髪型をしているが男は背中を伸ばしスーツを着たら、見れないこともない風貌だ。
女も今は、ヘアバンドで前髪をあげてすっぴんでいるが、きりりとした顔立ちをすれば迫力のある美人でもある。
それぞれ、仕事があり役職があり日常が気を抜けないのでこの狭く汚い部屋にいるときは、いつも二人はだらしない格好をしていた。

みかんの隣にあった、するめの袋を開ける女。
それをむちゃむちゃ食べながら、ビールの缶を片手に掴む。

「あたしたちって何なのかな」
「なに、人間はどこからやってくるのかとか、そういうレベルの話か」
「違う。彼氏彼女ではないのは確かなのよね。でも友達でもないでしょ」
「戦友とかそういうやつじゃないか」
「ああ、同じ境遇の戦友ってやつね」
「そうそう」
「幸せなのかな」
「幸せだと思う。だってあれだ、この前テレビでやっていたが人口が今70億人突破したのはいいがこのまま人口が増加しつづけると水と食料がなくなり、やばいことになるとシュミレーションしていてビビった」
「あんたがビビった話はいいのよ」

女は辟易したように言った。本心としてはこのまま、ずるずるとこたつを囲む生活をしていてはダメだと思っている。友達はみんな結婚していくし、結婚していない友達は夢を追っている。
なんだかんだとぼけたようなこと言っていたのに、みんな進路を見据えている。
目の前の男はそんな不安を覚えないのだろうか。
女は小さく、ため息をついた。
この曖昧な関係から抜けたい。せめてこいつに彼女ができたら通うのをやめるのにいつまでも独身でいるから居心地のいいこの部屋に来てしまう。

女は酒も手伝ったせいか、悪い悪戯を思いついた。

「あたしさー来年、結婚するんだ」
「うそ」

いつも眠そうな顔をした男がその言葉には驚いたらしい。ちょっと意外な反応だった。
「誰とするんだ」
「誰でしょう」

にやにやしながら言う。すると男はまた眠そうな顔に戻った。

「なんだ、嘘か」
「どうしてわかるのよ」
「お前は嘘をつくとき口が微かに震える。とてもわかりやすい人間だからだ」
「くっ」

女はまたテレビに視線を向ける。がやがやと賑やかなバラエティ番組を見ながらするめを噛む。
男がふいに言った。

「まあ、良かったよ嘘で」
「……」

女はどうしてと聞かなかった。
いつもはどうでもいいことを聞けるのに、その言葉の意味を聞き返すことはできなかった。あれこれと想像しながら、テレビに集中するフリをする。
戦友が一人減るのが嫌だったからか。
酒飲み友達が消えるのが嫌だったからか。
不毛な会話をする相手がいなくなるのが嫌だったからか。

それとも。


――それとも……?



おわり。




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