とある風景。

自分の居場所がなくなることなんてことは、いつだって想像していたことだった。
別に心を痛めることでもない。
自分にとってここは、死ぬまでいたい場所でもないし、居心地のいい場所もなかったからだ。

――切れ長の瞳をした少年が大きい鞄を持って天井まで続く窓から外を眺めていた。
きっちり整備された広大な庭園。これほどの庭をこの状態で維持するのにどれだけのお金がかかっているのだろう……少年は想像するのも馬鹿らしく、なのに金額をすぐに予想してしまい、自分に嫌気がさした。
少年がここで培ったのは知識だけだったからだ。


一人の紳士が歩み寄ってきた。この館の主人で一応自分の父親だった。
「……本当に一人で行くのか?」
「ええ。今までありがとうございました」
形だけ一礼する。
紳士は憐れむような目をした。皺ひとつない高級生地で作ったような衣服をまとった威厳のある、男。
貴族である彼は一夜だけ間違いを犯した。
歌手であった母と関係を持ち子供をつくってしまったのだ。
母と少年はこの男の好意で少年が成人するまで面倒をみてもらう約束だった。
だが、母が病気で亡くなったのと正妻とその子供たちが少年を疎みはじめたせいで、ここを追い出される形となったのだ。

少年は賢かった。この館で自分がいるためには愚かではダメだと思ったのだ。
愚かで常識を知らないでは母と自分は追い出されてしまう。勉強は好きだったし、腹違いの兄弟と話すこともないので勉強だけをがんばった。
だが、結局追い出されることとなった。

それでもいいと少年は思った。
母は死ぬまで愛する人の傍にいられたのだから。
同じ館にいながら数日に一回しか父は母の元を訪れなかったがそれでも幸せそうだった。
問題は、母がただの歌手だったということと少年が生まれてしまったということだ。
あとは少年がどことも知れない孤児院で死ねばいい。

少年は貴族の孤児などが集う施設ではなく、国で一番治安の悪い場所を自分から選んだ。
父は驚いた。何度も違う場所を薦めようとしたが少年は頑として首を縦に振らなかった。
目的はそこで暮らすことではない。

そこでくたばるためだ。
誰とも知られず、この世を去るために。消えてなくなるために少年はそこへ行く。

少年が出ていくのを見ている者は誰ひとりといなかった。
父の最後の好意で途中まで馬車で向かった。

貧民街付近になると馬車から下ろされて少年は小さなカバンひとつでそこに立った。
川からは腐臭が漂い、汚い衣服をまとった人々が猫背気味に歩いている。
高い建物のせいか日があまりさしていない。

遠くから鐘の音が聞こえる。
もう夕方であった。
すると暗がりからふらふらと何も言わずに少年たちが現れて少年の上着とベルトと鞄を脅し取った。
追いかけようと思ったがやめた。
どうせ、孤児院に行けば嫌でも私物などなくなるしそれを自分が望んだ。
すると後ろから声をかけられた。

「お前、命まで奪われなくてよかったな」
「……」
薄汚れているが整った顔をした、自分と同じくらいの年齢の少年がリンゴを片手に立っていた。
ばさばさの金髪が夕日に照らされている。
「食べる?」
「……」
かじり跡のついたリンゴを薦める少年。嫌いなタイプだと少年は思った。
何も答えないでいるとその少年が大きなため息をついた。

「あのさ、自分だけかわいそうな奴なんて思ってるんだろ。生きて俺と会話している時点でお前にはそんな権利ないからな」
「どういう意味だ」
少年は苛立った。金髪の少年はリンゴをかじりながら近づいてきた。
そして片手を差し出す。

「迎えにきた。今日から一緒に暮らすんだろ、よろしく」

どうやら、この少年は孤児院から来た案内人のようだった。
手を差し出さずに固まっていると、金髪の少年は足に蹴りをいれてきた。

「いたっ! 何すんだよ!」
「生きてるな。よし、握手」

無理やり握手をする金髪の少年。人懐っこい笑みを浮かべている。

「俺はアレク。名前は?」
「シズル……」

貴族の名字を言うのはやめておいた。もう自分はそこの人間ではない。
それに気づいたのか少年、アレクは言った。

「名字くらい新しいのを考えておけ。いずれ必要になるからな」
「?」

肩をたたいて笑いながらシズルを連行するアレク。
シズルは痛いと思いながらも、その手をはねのけなかった。人に触られるのは好きじゃないはずなのに彼の隣は妙にしっくりくるのだ。
なぜだろう……人との壁がないせいかもしれない。
裏も表もない性格なのか、演技なのか。
孤児院に暮らしておきながらどうしてこんなに人懐っこいのか。

シズルはもっと彼のことを知りたいと思い始めていた。
この出会いがのちに続くとは誰も、本人たちすらも思っていなかった。



× × ×


ちょっと長編小説のサイドストーリーを想像してみた。
小説を書く上で過去編が(使わなくても)必要なのかと思い直し巷にあふれている創作サイトさんのように散文あげてみた。うーむ。あまりしっくりこないかな?
まあ、あったかもしれない風景ということで。

占いで、好きになってもらおうとかそうではなく相手を思いやる気持ちが2011年後半は重要とあった。
小説を読んでいただき焦点となったのは「人を好きになる理由」だった。人を好きになるためにはお互いの背景を理解すること、悲しみも、過去も、喜びも、それでようやく要素がそろう。
占いと私生活と小説が一致しているようで色々考える。
つまり、相手を思いやる心だ。
私に足りない要素はそれで、だから小説にもそれが足りない。恋愛ものを書いているが本人が「これ」なんでよくわからなくなってきた。今までは特に何も考えずに「好きだお」「愛しているお」とか書いていたがそれではペラいのだ。やばい。
恋愛ものを書く人に恋愛が必要というわけではないと思う。
しかし、道徳的に相手を思いやる心は必要で「自分が自分が」という〝我〟は捨てないとだめだ。
親にも言われたが口調がきついし考え方もきついらしい。私という人間は。


ああ、優しくなりたいもんですなー。
「家政婦のミタ」のエンディング曲「優しくなりたい」っていい曲ですね。
なんか身に染みる。


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