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世間には残念な女子がたくさんいるけど関わるのはごめんだ その5

「くさい台詞の方が女子はわりと、ぐっとくるのよ」
「そういうものなのか? きもい、って言われないないか?」
初依頼者、チャラ男の枕崎と八千草の会話を黙って僕は聞いていた。

恋ができないタイプの女子が「ぐっとくる」と言っても説得力がない。
と。

「ごふっ」
いきなり、八千草が鳩尾に拳をたたきつけてきた。
――結構、重いぞ。五臓六腑に響き渡ったぞ!
「い、いきなり何をするんだ、八千草紅子おおおっ……」
苦悶の表情を浮かべながら尋ねる。八千草はしれっとした態度をとった。
「なんか心の声が聞こえたような気がしたのよ。己のことのようにちゃんと考えろ」
「すいません、なんか俺自分のことなのに、人に頼ってしまって!」

枕崎の方がガクブルしだした。なんなんだ、この部。

「じゃあ、聞くがくさい台詞って例えばどんな? 八千草が男子に言われて嬉しい言葉は?」
「え」
八千草は言葉に詰まった。しばらく爪をかんだのち、

「あなたは薔薇のように美しい、とか」
「言われたいかそれ、ほんっっっとうに言われたいのか?」
「いいじゃないですか、詩的で素敵です!」
「詩的で素敵って韻をふませて言えるお前のがすげえよ」
僕はボケ二人の相手で頬がやせこけていないか心配になって顔を触る。大丈夫だ、まだ凹んでない。
「じゃあ、それは入れてーそうね、あと好きになったキッカケとかは?」
「いつもは清楚な感じの彼女が友人の体操服借りたときにひとまわり小さいやつ着てて、そんときに意外なグラマラスな体をしていたんだ。しかも体育のときにボールがあたってメガネがふっとんで顔をあげたときにかわいかったからギャップに萌えた」
「なるほど」
「なるほど……ってお前、思考がオタクっぽいよな。つまり体と顔しか興味持ってないよな。どうやってラブレターに美しく反映させるつもりだ」
所詮、高校生ってのはそんなものだ。
好きになる条件は、まず容姿と体だ。
八千草はふうむ、とうなった。

「『あなたの体は溌剌とした小鹿を思わせます。俊敏に動く小鹿です。私はそんな小鹿にまたがってみたいと思いました。つぶらな瞳もまるで小鹿のようです』……どう?」
「おおっ……!」
「おお、じゃねえええええっ! どう考えても不純な動機しか垣間見えんわ……! 僕が女子なら完全にひくわっ!」
「じゃあ、あんたならどう書くのよ」
「僕? そうだな……さっき薔薇に例えたんだから植物でいいんじゃないか。ギャップ萌えしたんだからそれを訴えて『薔薇は鼻をよせつけないと中々香りが漂ってきません。ですが、鼻を近づけたときに初めてその香りの良さに気付きます。私はあるとき、あなたの美しさに気づきました。薔薇の美しさに気づいたなら次にどうすると思いますか。そうです、鼻を近づけて香りを楽しむのです。私はあなたにもっと近づきたいと……』ん? どうした?」

八千草と枕崎が怯えたような目をしていた。
「なんか、あんた犯罪者になりそうよね。ハンニバル的な何か」
「俺も今の文章にちょっとびびったぜ」
「どういう意味だ」

ともかくも、ここに初告白(と思う)の童貞野郎(と思う)の枕崎と恋愛の仕方がわからん僕と八千草しかいないのが、原因だ。
僕は真面目に考えるのをやめて後半は同意しかしないことに決めた。
じゃないとここで永遠に出せないラブレターを考える羽目になる。
外は日が暮れ始めている。
僕は教室の時計をちらっと見た。今日は塾のない日だから別にかまわないが早く帰って眠りたい。

「なんか昔の小説とか引用してみはどうだ?」
「そうね。それもいいわ」

手っ取り早い方法を思いついて提案してみると八千草がそれにのった。案外、彼女も早く帰りたいのかもしれない。枕崎もうなづいた。
ところが、彼女は
「わかった。私がみんなの意見をまとめて家で考えてくるから、今日はもう解散しましょう!」
といきなり席をたち鞄をひっさげてバイバイと手を振って教室から飛び出してしまった。
横顔が笑っていたので僕はなんだか嫌な予感がする。
しかし、その文章を渡すのは僕じゃない。こっちを不安げに見上げる枕崎は無視して僕も、

「今日はおうちへ帰ろうー♪」

と有名な歌を口ずさんでみせた。しん……とした教室にわりと響いた。
だから、枕崎、不安そうな目でこっちを見るな。



つづく。
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