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タイムマシンにのって【終わりと始まり】了

2011年。

この時代は大不景気で、災害も多く人々の不安が絶えない時代だった。
僕はというとまだ小学生だったからあんまり覚えてはいない。ただ、人々は変わらなきゃと思っていた時代なのはわかる。これまらのやり方が否定されはじめたのだ。

トキコが住んでいた町。あんまり都会的でもないけど、田舎というわけでもない。ごみごみした路地やコンビニが数件おきにあったかと思えば畑があったり、非常にバランスの良い住みやすそうな町だ。
高架下をくぐり三叉路まできて左に行く。
小学生たちが帰宅途中にあった。思わず平和な日常に目を細めた。
と、電信柱の傍に立っていた黒髪の女性が懐からナイフを取り出した。

しゃがんでいる赤いランドセルの女の子の上から振り上げる。
僕は瞬間的にそれがトキコだと分かった。
けれど体が動くことができない。
いったい、なぜ、どうして、止めなきゃ、ここからでは止めることができない――。

僕は迷ったのだ。
そして次に巻き起こる惨劇を想像して目を覆う。

悲鳴があがったのは幼い女の子の悲鳴。
ゆっくりと目を開けると血だまりの中に倒れていたのはなんと別の「僕」だった。

「アキラ……」

トキコのうつろな声がした。
僕はもう一人の「僕」と目があった。彼は微かに微笑んだ。

赤い血を張り付かせて何を笑っているんだ、それも愛した人に刺されてるんだぞ?

声をかけることもできずに僕はしばらくじっとしているトキコと自分の死体を遠くから眺めていた。
すると僕らの時代の警察がやってきてトキコに手錠をした。
「どうして、こうなった」
警官が厳しい声で聴くのでトキコは怯えたように言った。
「わ……私、彼を殺す気なんてなかったんです。ただ、これから辛い人生を送るはずの自分を殺してしまおうと思っただけなんです……それを、どうしてか彼が止めに入って――」
「自己の自己による時間他殺も違反することを知っているだろう。詳しい話は署で聞く」
未来のタイムマシン機能のついたパトカーに乗せられる彼女。
そのとき、警官がこちらに振り返ったように見えたので僕は慌てて物陰に隠れた。

そして、怖くなってその時空から逃げ出した。


× × ×

結婚式前日の僕の部屋。
トキコが僕を殺す。その事件が起こったのは場所は2011年だけどいつの時空の僕たちかというとそれは「未来」の僕たちなのだ。
僕とトキコが結婚している未来はどこにもなかった。
つまり「今」過ごしているこの僕が殺されることとなる。
僕は恐ろしい過去や未来を見て体の震えがとめることができなかった。
トキコと会わなきゃよかった。
トキコを愛さなければよかった。

僕は頭をかきむしる。
死にたくない。
死にたくない……!

醜い言葉が浮かんでは消えた。
僕の頭から黒い文句がすべて吐き出されたあとに、ぽつんと出てきたのは初めて告白したときのトキコだった。
告白したのは僕からだった。
彼女は拍子抜けした顔をして、それから大粒の涙を流して何度も「私でいいの?」と震える声で聞いてきたのだ。
そして自分のだめなところを嗚咽交じりに話しだし、幸せになる資格なんてない人物だと己を罵った。
彼女を説得するのにとてつもない時間を要した。

トキコを愛さなければよかった?
そんなわけない。
数分前の自分の言葉を否定する。僕はトキコが好きだ。
トキコと出会えてあらゆるものに感謝したものだ。
感性が似た僕たちは夕日が綺麗だと言ってゆっくり歩くことを厭わなかったし、好きな映画も一緒だったし、キラキラしすぎて時に攻撃的な子を避ける傾向があったし、辛いことがあったときはすぐにお互い気付きあえたし、肌で触れ合えば幸福が満ち溢れたし、電話の声だけでも愛しさが増したし……時には、分かり合えず喧嘩もしたけれど、いつも僕から仲直りをした。
彼女はいつも寂しそうだった。
でもそんな彼女よりも寂しがり屋だったのは僕だ。トキコを失いたくないといつも思っていた。

僕は机の引き出しから白い封筒とペンを取り出した。
そして、これからする選択は僕が選んだ未来だということと、未来のトキコへのラブレターを書くことに決めた。
郵便はいまだに手紙への日付指定ができるのでトキコが裁判を受けていたあの日付にした。
この手紙は彼女を救うことができるかもしれないし、できないかもしれない。
それでもトキコが自分のことを少しでも嫌いになってしまわないように送る。

君は誇っていい。
僕にこれだけ愛されたのだから。
僕も君を幾多の女性の中から見出し愛せたことを誇りに思う。

手紙に封をしてから僕は気付いた。きっと今しかないんじゃないか。僕が過去の自分にトキコを間違えるなよと忠告するのは。
手紙を出してから僕は学生の頃の自分に会いに行こう。トキコのことを念押しするためだ。
次に小学生の頃の自分を殺しに行こうとしているトキコを止める。止めることによって僕とトキコが出会う時間が消えないからだ。
その結果、僕と彼女の未来は消えてしまうけれど、それでも過去があればそれでいい。

僕が幼い日の彼女の変わりに死ぬことによって、僕は彼女と出会うことができる。
あの素晴らしい時間を有することができる。
過去を消したくないから僕は今、がんばるわけだ。
まあ、これも一つのエゴかもしれないけど。


でも、これだけは言える。

君と会える瞬間を楽しみにしているよ、過去の僕は。
今でも脳裏に浮かぶのは、君がようやく言ってくれた言葉だ。


『来世で会ってもいいくらいには、あなたのことを愛してしまったみたい』




おわり。
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