帰りを待つ人もなく。

あまり眠れてはいないが、仮眠程度には眠り目が覚めるとそばに金髪の少女が眠っていた。
わずかながら驚く。
驚いてから昨日、何故か殺した対象の遺族をひきとってしまった自分を悔いた。
ゆるゆると起きだして頭をかく。
そして、顔を洗ってから鏡を見る。
目の下にクマがあった。冴えない顔をしている。生まれたときからこんな顔だっただろうか。
気にせず、重いコートに腕をとおす。
そして、テーブルにわずかなお金を置いて部屋を後にした。


通りに面しているガラス張りのカウンター席で遅い朝食をほおばる。
匂いが残らないように野菜がメインのサンドだった。
通りを歩く人はまさか自分が何人も殺してまわっている殺し屋だとは気付かずに通りすぎていく。
自分だってその中に、麻薬密売している人物や、諜報部員や、または芸術家が歩いていたとしてもわからない。それと同じことだ。
店を数分とたたないうちに出てその足で仕事へと向かう。
また人を殺さねばならない。

× × ×


どさりと力なくして倒れた人物を眺めてから身をひるがえす。すると後ろに笑顔を張り付かせた手配人の姿があった。まったく気配に気づかなかった。
「どうした。仕事の確認をしにきたのか?」
「いやいや、こんな仕事などあなたにとっては朝飯前でしょう。といっても朝飯は食べてしまいましたよね」
何がおかしいのか、肩をゆらしてしばらく笑ってから、
「実はね。もう次の仕事が入っているのですよ。このまま向かってもらえませんか?」
言いながら懐から地図を渡す。それに次のターゲットの写真もついていた。
「大丈夫ですか。疲れているなら別の方に頼みますが?」
「いや、いい」
仕事はできるだけ受ける。
断る理由が自分にはないからだ。疲れてもいないし、殺しに精神力を使う必要もないし、まだ昼前だ。
「ありがたいですよ。何せ、最近仕事がたくさん舞い込んできていまして。本当は目もまわるくらいの忙しさなんです」
普通の話のように彼は言った。誰が誰を殺そうと俺には関係ない。
ただ、その話を聞き流した。

× × ×

それから、手配人の言うように次から次へと依頼が来た。殺した現場から次の現場へと急ぐ。死体はいつも会社が始末してくれている。自分はただ、目的を達成していけばいい。
いい加減、疲れてきていたころだ。
死体を見おろしてから壁にもたれる。もうこれで一旦は片付いたか、手配人は姿を見せなかった。
ふと気づく。

――今日は何日目だ?

家にずっと帰っていない。
そうだ、少女は? ずっと放ったらかしにしてきたが少女は部屋で生きているのだろうか。
賢いように見えたがまだ幼い。
慌てて、現場を後にする。

× × ×

ドアを勢いよく開けるとそこに少女の姿はなかった。
焦るどころか、なぜか静かな気持ちとなった。最初からこの部屋に少女などいなかったのだ。自分が養う対象がいるはずもなく、殺し屋を部屋で待つなど愚か者のすることだ。
きっと少女は逃げた。
そう考えたところでベッドの塊に気づく。めくると少女が眠っていた。
ごはんは食べていたのだろうか。テーブルを見るとお皿とパンの食べかけが残っていた。
少女が目を開ける。空色の目が自分をとらえた。

「おかえり。あたし、迷惑かけないって言ったでしょ」

こちらの考えを見越したように少女が言った。
なぜだろう。
その言葉を聞いて安堵した自分がまるで自分じゃないように思えた。




おわり。
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