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獏の見る夢

これは夢だ、と思う夢を僕はみない性質なのに今回の夢はそうと気付いてしまった。
夕焼けの淡い光が世界を包んでいる。
そして、誰の姿もないブランコと滑り台しかない公園。ほとんどが草の生えた空き地だ。

丘になったところから僕は柔らかそうな草が揺れているのを眺めていた。その眼下に、先ほどから茶色(?)の生き物がずっと草をかがんで食べ続けていた。
最初は馬か犬かわからなかった。
だが、いつの間にか横に立っていた人物から答えは導き出された。

「彼女はね、悪夢を食べるという獏だよ」

シルクハットに燕尾服を身に纏った奇妙な男性のその答えにすんなり納得がいく。
夢なので僕は特に驚かなかった。

「どうして『彼女』だと思うの」
「女性、だと僕は知っているからさ」

男性は愛おしそうにここから獏を眺めている。眺めながら言う。

「ところで僕の自己紹介がまだだったね」
「知ってる。悪夢をつくるとされるナイトメアだろ?」
「どんぴしゃ。なぜ、わかったんだい」

これは僕の夢だからだ。そう説明するのも面倒だなと思っていたらナイトメアは答えなど最初からわかっていたかのように続けた。

「君の悪夢は平和だね? これが悪夢と呼べるのかい。ただ夕焼けに誰もいない公園が広がっているだけ」
ナイトメアは肩を大げさにすくめてみせた。
「僕にとっては悪夢さ。学生の頃ずっといじめられてて家までの帰宅が憂鬱だった。落書きされた教科書、汚れた制服、体の傷……どうやって親から隠そうってね。そんなことを考えながら歩いたのがこの風景だよ」

なんともないことのように僕は言ってのけた。ナイトメアは「なるほど」と言っただけだった。
そして唐突に自分の話をしだした。

「いつも獏の彼女と私は争っていた。悪夢を食べるもの、悪夢を作るもの、作っては食べられ私は大変困った。しかし、あるとき私は勝利した。大変毒のある悪夢を作ることに成功したからだ。それを食べた彼女は人の姿に戻ることもできず、言葉も理解しないただの獣となった、あのようにね」

白い手袋をした指をさす。獏はずっと草をゆっくり食べ続けている。

「私と獏は好敵手同士だった。大食らいの彼女がいなくなったら悪夢の作り甲斐がない。何せ、夢の主がただうなされるだけだからね。それを片端から食べていって良い夢へと変えていく彼女の存在はいつしか大事なものになっていたようだ。だから、私はこうして彼女が自分を取り戻すのを待っている」

僕もただ、感想もなく「ふうん」と言った。爽やかな風が吹いた。ナイトメアの瞳は金色だった。
きらきらと輝いている。とても悪い人物のようには思えなかった。
ふいに、彼が言った。

「まあ、彼女が元に戻れば私はたぶん食べられてしまうだろうけどね。私も悪夢でできているから」
「それでいいの」
「……いいさ」


景色がだんだんと遠くなっていく。
ゆるやかに現実が夢を覆っていった。まるで夢は海の波に流されていくかのように消えていく。

――打ち捨てられた夢はどこへ行くのだろう。
朝が悪夢を追い払ったとしても夜になればどこかでまた、誰かの中で展開する。
そのたびにナイトメアは獏をただ、見つめているしかない。
いや、ひょっとすると獏がナイトメアの夢を見ていたのだろうか。だとしたら、わざと獏は記憶がないフリをしているのだろうか?


そんなことを考えているうちに僕は目を覚ました。
頬が少し濡れていたのはきっと気のせいだろう。

僕は悪夢を見ていない。きっと僕の方がナイトメアや獏のみる夢に迷いこんだだけに過ぎないのだ。
あの風景も僕の中では遠い昔の出来事だ。今はもう泣いて帰った学生じゃない。
過去は、遠く過ぎ去るもののことを言う。

僕は嘆息する。
つまらない夢を見たものだ……と。



おわり。
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