きつねの嫁入り

昨日から俺の姉は帰っていない。
自慢じゃないが俺の姉は美人な方だった。ちょっと釣り目がちで肌が白く細い。いじわるそうに見えるが美人は美人だ。だからといって、いい歳こいた女がうちに帰ってこなかったくらいで大騒ぎすることではないはずだが、それが結婚式前日なら話は違ってくる。
俺と両親はかたっぱしから知人に電話をかけまくったが誰の家にもいないらしい。姉の行きそうなところを新郎と共に探しまくったが姉はこの世から忽然と姿を消したかのように痕跡を残してなかった。
結婚式当日の朝、俺たちは親戚中にこのことを電話する前にできることはしようと必死だった。

「まさかマリッジ・ブルー?」
母が言った。俺は姉に限ってまさかと思った。そんな繊細な玉じゃない。結婚するのは楽しみにしていたし俺に自慢をしまくっていた。俺は彼女いない歴は生まれた年齢にイコールする……ってうるせえ。
とにかく姉ははしゃぎまくっていたのだ。
失踪の理由がわからない。
「犯罪にまきこまれたかな」
俺はぼそりと言った。気の弱そうな新郎が「そんなあ~」と泣きそうな声をあげた。
「玲子の行動をわかるところまでもう一度確認しあおう」
父の言葉でとにかく不安を言い合うより姉の行動を一覧にしてみることにした。

朝に起床した。その日は式前日とあって美容院に行くとか言っていた。
美容院から帰ってきてから昼ごはんをうちで食べたあと友人と会う約束をしていた。
友人と一緒に夕飯。
友人とはレストランの前で別れる……。
その後から消息がつかめないのだ。と、俺は名案を思いついた。
「ツイッターやってたじゃん!」
姉の呟きは見たことがないが(見るのを禁止されたいた。ドメイン名も教えてもらっていない)ツイッターをマメにしていたなら直前の行動までわかるかもしれない。早速友人に聞いてドメイン名を教えてもらう。
新郎も知らなかったらしく初めて見るらしい。パソコン画面を開きみんなで凝視する。非常事態なのだからしょうがない。

reirei 友人が遅れているひまなう。 

玲子だから「reirei」ひねりも何もない。そしてこれがいなくなる数時間前の呟きだ。友人と会うまでの間になされたもの。友人は遅れてしまったらしい。

reirei 喫茶店に入って待つ。外は晴れているのに雨が降り出した。

reirei なんかちょー美人な赤い服を着た女性が店に入ってきた(=_=)びしょぬれ。こっち向いたー!

reirei 一緒に飲むことになった。携帯持ってないみたいであたしのすることに興味深々WW


そこで終わっている。そして喫茶店を出て友人と合流し食事、行方不明。でも見ず知らずの人と数分間、接触していたわけだ。これは怪しい。俺が代表で友人と駅と待ち合わせだからその近くにある喫茶店へと行ってみることになった。

喫茶店には人もまばらだった。駅に近い立地条件だというのに店内は薄暗く、ジャズがかかっている。コーヒーの香りが漂っていた。喫茶店は早朝からやっていたので助かった。
すると人目をひく赤い服に身をつつんだ黒髪の女性がいた。不気味なほどの美人だ。
姉と同じく釣り目がちだった。俺は直観でその人の前の席に勝手に座る。

「こんにちは」
あいさつをする。ナンパしている気分となる。俺は窓の外を頬杖ついて眺めている女性の横顔を眺めた。つんとした顎がこちらを向いた。
「こんにちは」
「突然ですいません。うちの姉がちょっとこの喫茶店であなたのような赤い服を着た女性と会ったようなんですが知りませんか」
「それ、たぶんあたしだわ」
「……!」
やはりそうか。でも驚く。女性はコーヒーを口に含んだ。
「君は、結婚ってどう思う?」
「は?」
「あたしは自由がなくなるようで嫌なの。もっと知りたいことはたくさんあるし遊びたいこともたくさんあるのよ」
「結婚はリア充になれるものらしいですよ。うちの姉の言葉ですが」
「なによ、その、りあじゅうって」
「リアル充実。つまり現実が充実するとうことです」
「現実は現実でしかないのじゃない? 幻想の中で人は生きられるの?」
「ネットの世界と現実で、ということですよ。ネットの世界ではたくさん友人がいても現実ではそうでもない人もいるんです」
「ねっとって何?」
「ネットを知らないんですか。うーん、なんていうか。そうだなあれに似ているんじゃないですか。霊界とか」
「?」
「幽霊の状態では友達がいるんですが、現実の生身の人間に戻ると友人がいなくなるんです」
自分でもおかしい例えだと思った。俺の言葉に女性はきょとん、となる。そして赤い口紅をした口元を笑みの形に広げる。
「あたしは人間の世界でいうリア充になれるというのね。そうか。幽霊の友達いてもおもしろくないもんね」
「たぶん、そういう話……かな」
話の趣旨がよくわからなくなってきた。何の話だっけ。
だが、女性は一人納得して颯爽と立ち上がり店を出た。
あ。この人、お金を払っていない! 俺はおごりはごめんだと思って慌てて外に飛び出る。
すると甲高い声があたりに響いた。空き缶を蹴ったような動物の鳴き声。その声は――。

「姉さん……!!」
また、小雨が静かに降っている。そして喫茶店の前に白無垢をまとった姉が雨に濡れて地面にへたれこんでいた。
呆けたままの姉。
俺は慌てて姉の肩を揺さぶった。

「おいっ、こんなとことで何をしてんだよ! みんな心配してたぞ!」
「あたし……化かされたわ。身代わりになるところだったのよ」
「は? 何言って……」

朝日がまぶしく辺りを照らし出す。夜更けから朝に代わる街並み。その中を黄金の雨が降り注ぐ。ささやくような小雨が冷たく心地よい。
化粧を美しくほどこされた姉がぽつりと言った。

「きつねの嫁入りだったのよ。今日は」

小雨の音を聞きながら先ほどの女性と雰囲気の似ている姉を見た。朝日が茶色い瞳を薄く染めた。
その言葉で俺はなんだか、わからないことがわかりかけた。
姉はきつねの嫁入りに身代わりとして巻き込まれたのだ。自由を欲した狐はリア充という言葉に説得されてくれたが説得されなければうちの姉が狐に嫁入りしていたのだ。


俺は姉の肩に置いた手がゆっくりを力を失っていくのを感じていた。



おわり。




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コメント

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ハラハラしましたぁ~

こんばんは!サワムラです。
「きつねの嫁入り」、ごっつツボを突かれました!
まず、タイトル! 私、雨(特に小雨、霧雨)がすきで、そういったものが題材になっている物語はすっごく気になるんですよ☆
そして姉×弟もすきです。しかも、嫁入り前の姉とか・・・!なんだか設定がもうすでにステキ!
これだけでも満足な私でしたが、出だしからなんだか怪しげな雲行き・・・
ドキドキ、ハラハラしながら読ませていただきました。
ネットは知ってますがツイッターやリア充を知らない私は赤い服の美人さんと同じ目線でそこは読ませていただいたり(笑)
最後はホッと出来てよかったですw

こういった短いネタを高瀬さんはたくさん書かれていますよね、しかも長篇も書かれていらっしゃるし・・・
私は短い話にしようとしてもすぐにダラダラ長くなってしまって、自分で飽きてしまうのでダメです(^_^;;)

またお邪魔させていただきますね!
では~

Re: ハラハラしましたぁ~

おはようございます。早速の感想ありがとうございます!
私も雨の題材が好きなんですよー小説のシーンとかでもよく雨シーンはいれます。姉×弟のコンビいいですよね。恋愛もの(それは背徳的な)ではなくあくまでコンビものでね★
きつねの嫁入りという古風なタイトルでありながらネットとかツイッターとか混ぜちゃいました。ツイッターは最近はまっているのですがあれもやってみないと「?」ですよね。ネットの世界とかよく考えたら使ってはいるものの原理は不明です。電気とか電波の力を使っているのかなーくらいしか。

私はオチを急ぐところがあるのでその過程がおおざっぱなところがあります。私も飽き性です。だからこの話もこの短さで飽きそうになりましたがなんとか無理やり着地させた感じです。好きなシーンだけ散文では切り取って書いてる感じです。サワムラさんはたぶん過程を丁寧に書かれているから長くなるんだと思います。いやふつうは丁寧に描くものなんですが(^_^;)
「この世界の片隅で」の更新楽しみにしています。
それでは、またの機会にー♪
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