夏の恋

天気のいい日だった。空には入道雲がはっきりと紺碧の中に浮き出ている。
明日から夏休みだった。
夏休みはけして休みなんかじゃなくてこれからの進路のこととか塾とか宿題とか遊ぶとかたくさんしなくちゃいけないのに、でも結局のところ何日間かはだらだらと過ごしてしまうんだろうな、とか考える。
「楠木ー何をよそ見しているー」
「あ、はい」
担任に名前を呼ばれて窓の景色から視線を外す。
窓辺の席というのはカーテンがたまに邪魔することがあるが風が通るし、外を眺めて一時気的に学校という空間から意識だけ飛ばすことができるのがいい。
何やら前からプリントがまわってきて登校日の説明とかあって、ようやく俺たちは解放された。

× × ×

読書感想文用の本を図書室で借りようと思い帰り際による。友人たちはカラオケ行くとかなんとか言っていたが俺は毎回参加するほど社交的ではない。二回に一回は断るようにしている。
奴らはカラオケに行きすぎるのだ。
図書室は、冷房をきかせておらず、窓が全部開け放ってあるだけで空気は暑い。
カーテンがはためていた。
意外に人はおらず、がらんとしている。
図書委員の姿もない。
出直そうかと思ったときに本棚の隙間から人が現れた。
「本、借りるの?」
「ああ」
俺は冷静な人間だった。いきなり女子と二人きりになっても態度を変えることはなかったし一目ぼれなんてしない性質だと思っていた。
だが、なぜだろう。暑い図書室なのに汗ひとつかいていない涼しげな表情をしたその子に目が離せなくなった。
黒くまっすぐな髪にアーモンド型の目。肌はまったく焼けておらずセーラー服と同じように白い……いや、これは言い過ぎか。とにかく肌色ではなく白色なのだ。
短すぎでもないスカートが風で揺れた。

「なんかおすすめの本とかあるかな?」
「――」

彼女は一瞬、何を聞くんだこいつといった表情をした。だがすぐにそばにあった本棚から適当に本をとった。
「これとかいいんじゃない」
「星の王子さま。絵本じゃないか」
「あたしは読んだわ」
「ふうん。なら読む」

なんだかおかしな会話だった。俺は彼女の名前を知らない。図書委員だろうか。
とにかく、まずは近づくためにそれから読破しよう。そして名前を聞いたらまたおすすめの本を借りよう。

と、ここで内なるもう一人の俺が反論した。

……しまったなあ。夏休みなんてものはちょっとしかないのに今から恋愛するの?
正直めんどうだなあ。
恋って体力がいるんだよ。夏ばてになりそうな俺にそんな芸当ができるのか。

彼女が髪を耳にかけながらカウンターへ入る。そして片手を差し出した。
やっぱり図書委員だ。そして本を差し出すとレジみたいにバーコードを読み取る。
「返却は夏休み中になるわ。ちゃんと返却しに来てね」
「その時に君はいるの」
「……」

彼女はまたなんてことを聞くんだこいつはと言った表情をした。
そして一言。

「来ない」
と言った。


いやいや、これは撃沈ではない。俺の恋は始まったばかりだ。


おわり。
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コメント

非公開コメント

いきなり遡った日付の記事に感想を入れて大丈夫でしょうか??
遅くなりましたが「夏の恋」読ませていただきました。
もうとっくに学生から遠退いているはずなのに(高瀬さんも!)、情景がリアルに浮かんできて初夏の清々しい気持ちを味わえました。
風ではためく教室の、図書室の、カーテン。凄く青春な匂いがしますね!

恋の始まり、始まった瞬間のシーンを切り取ったストーリー。そして、彼女は意外と釣れない反応。(笑)
でも、ここで物語が切れていて、かつ主人公の少年のテンションも下がっていないところが、若さ溢れる感じでよかったです☆
「え、今から恋愛はじめるの?」っていう内なる声もリアルでステキ。恋とは体力が要るもの、凄く納得します~ 

私がドキドキしたポイントの一つに彼女が選ぶ本がありましたが、いいチョイスをしますね↑
星の王子さま、あとは個人的には星新一、などならこのストーリーにピッタリな気がします!
ここで、夏目漱石や森鴎外が出てきたら、彼女への印象がまた変わりそうですよね。
それはそれでまたいいんですが。

それでは、また!
次回は、遅くなりましたがずっと気になっていた「さようならメッセンジャー」の完結までのストーリーを読みに参上いたします!

Re: 過去のでもコメント大歓迎ですよ。

いきなりも何もすべてに目を通していただいてありがたい限りです。
日記のカテゴリを少し整理しました。メッセンジャーはあれで終わっていますし、殺し屋と少女はどうすれば終わるのかわからない散文形式の「なんか繋がっている」物語です。

「夏の恋」夏ということで久しぶりにひなびたOLではない主人公を書こうと思って書きました。でもやっぱり若いのに冷めている青年が主人公。それは私に元気とか若さがないからー。らー。
学生から遠のいてますが未だに授業の夢は見るんですよ。学校いやだなあって話ならたぶん書けます(むなしい)図書館は癒しだったので雰囲気は覚えてます。
星の王子を彼女が手にとったのは私の目の前に絵本があるからです。でも未読だったりします(爆)
確かに手にとる作品によって彼女のイメージが少し変わりますね。夏目漱石とか森鴎外とか渋いですね。

さよなら~はカテゴリわけてみました。最後が無理やりまとめた感ありますがあれで一応完結です。
それでは、いつも感想ありがとうございます。
またの機会にお会いしましょう~★
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