よくわからない関係。

「はい、頼まれていた書類です」
上司から渡すよう頼まれていた書類を他部署の彼に渡す。別に特別なことなんてなかった。
彼は受け取るときに、あたしの顔を見た。あたしも書類から目を離し彼の顔をうかがう。
しかし、その時にはすでに彼はあたしを見ていない。
いつも、そうだった。視線を感じてそちらに目を向けると彼は見ていないのだ。
だからといって顔が赤くなっているとかそういうわけじゃない。
実は、あいさつをして無視されたこともある。
その時は声が小さかったせいかな、とか思ったけど、第三者がいてあいさつしたときはぼそり、と返ってきた。
なんだか嫌われているのかもしれない。
彼はコンタクト時々メガネ派らしく、今日は黒縁のメガネをつけていた。
たぶん、もてないことはない。よく人と笑っているところを見るし女性に奥手というわけでもない。
ただ、あたしに対しては無愛想だった。
あたしのことが好きなんじゃないかと思う要素を感じられないくらいに。

そんな折、会社の帰りだった。自販機で冷たいジュースを買おうとしたら後ろから気配を感じ振り返る。
「あ、どうも」
会釈をする。あ、どうもなんて色気のない言葉だ。
だが、相手が彼だったならしょうがないではないか。
彼も無言で会釈をして少し離れて待っている。自販機で何か買うつもりか。
あたしはジュースを取って「お疲れ様です」と言って去ろうとした。

「ひとつ、聞きたかったんだけど」
「はい?」

声が裏返そうになる。なんだか殺気じみた雰囲気だ。彼はあたしを見ずに同じジュースのボタンを押しながら言った。
「僕は君に何かしたかな」
「何かって何を?」
「……」
沈黙が下りた。あたしは気まずくなって適当に「大丈夫ですよ、何も問題ないです」とわかっていないのに会話を終わらせてそのまま引き下がろうとした。
ジュースを手に持ちながら帰ろうとするあたしの後ろに彼もついてくる。
隣りに並ぶと背が高いのがわかる。

「いつも、機嫌わるくなるよね。僕と対峙すると」
「え、あたしが?」

 彼はうなづいた。あたしは首をかしげた。それは彼の醸し出す雰囲気がそうだから自然にあたしは機嫌が悪くなるというか居心地が悪い思いをするだけであたしが先でないはずなのだが。

「そんなことないです。あなたの方こそ、あたしといると不機嫌ですよね」

言葉にするとなんだか空しい。彼は他の人といるときは気持ちのよさそうな人間に見えるからだ。

「それは誤解だよ、きっと」

そう言ってから彼はあたしより先に行ってしまった。たったそれだけの会話。
背中を見ながらあたしはとぼとぼと歩いた。
夕日に照らされた彼の髪がさらさらと風になびいている。
あたしは様々な憶測を頭に飛ばした。嫌いな人間に誤解だということは、彼はあたしのことが好き?
いやいや、それは飛躍しすぎか。ただ単に会社の人とはみんな仲良くしたい性質なのかもしれない。

何はともあれ、あたしと彼の関係はよくわからないままだ。
追及したい気持ちと何をどうすればいいのかわからないのと、なんだかイライラする。
はっきりしないと、あたしは――。

あれ?

『次の恋に移れないと』思ったのはなぜなのでしょうか。



おわり。
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