さよならメッセンジャー「嘘のさよなら」

「さよなら、いつかまた――これが彼女からのメッセージです」
親と暮らしているという冴えない風貌の男に告げられたメッセージは何の変哲もないと言えば失礼だがトキトウが思うにメッセンジャーという仕事をしていれば月並みだなあと感じずにはおれないシンプルなお別れの言葉だった。
男の名前はタキタと言った。
タキタは眠たげな目をしており、トキトウの言葉を聞いて一瞬だけ目を見開いたかのように見えたが気のせいだったかもしれない。前髪が長いのであまり確認できなかった。
家の門から中にはもちろん通してもらえずトキトウはそのまま去ることにした。

○ ○ ○


「トキトウさん、あなたを出せと喚いている女性から電話がかかってますが代わりますか?」
シジマの言葉に首をかしげる。誰だろうと思って電話を出てみると確かに相手の女性は混乱状態にあった。
『もう、どうしてくれんのよ! あんたのせいよ! あれから一切連絡がとれないじゃないの!』
「落ち着いてください。まず、名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
『タキタさん、無感動な人だから何かサプライズを用意したくてメッセージを頼んだだけなのに本気でとらえちゃって……電話もつながらないし、家に行っても出てくれないし……』
名前を名乗らないがタキタ、と聞いて納得した。あの眠たげな目が思い浮かんだ。
この女性に対してあの彼氏とは合わないなあと思っていたことも思い出した。
「どういうことですか。本気でとらえてもらえれば、いいのではないですか?」
『嘘なの、別れようなんてあたしはこれっぽちも思ってなかったの!』
「――え」

話を頭の中で整理する。つまり彼女はタキタを驚かせたくてさよならメッセージを頼んだに過ぎないのだ。
彼女の中では相手が驚き彼女に問い詰めたところで明かす手はずだったようだ。
それが別れの言葉を本気に受け取りすぎてあれ以来、一切連絡ができなくなったらしい。

さよならエージェンシーとしては「さよなら」の後クライアントがどうなったかなんてことまでは関係ない。それで本当に別れた人たちもいるしできいなかった人たちもいるかもしれない。それはプライベートなことなので確認はできない。
だから、料金をもらいメッセージを言う。これが終わればあとは知ったことではない。
そうトキトウは考えるのに口から出た言葉は別だった。

「わかりました。これからタキタ様へ謝罪に行ってまいります」

○ ○ ○

「申し訳ございませんでした。別れの言葉はタキタ様宛ではなく別のお客様の物でした」
深く一礼する。
またタキタは門を開けるでもなく庭先まで、とした。
「……どういうこと」
タキタのセリフが少し不機嫌なものとなる。
「ですから、別の方へのメッセージを取り違えてしまいまして――」
「今更」

トキトウの言葉をさえぎりタキタが門を開け放った。そしてトキトウを睨みつける。
「そんなことがまかり通るとお前は思っているのか? 俺は悩んだし、悲しんだ。これ以上ないくらい悲しんだ。分かるか、彼女本人からじゃなく誰とも知らない小娘から聞かされたんだぞ。
 発狂してもおかしくない状況だった……」

タキタの頬は少しこけたようにも見えた。その言葉の通り前髪の間から覗く目から悲しみが滲んでいる。
無感動な男。確かに最初の印象はそうだった。
けれど今タキタは、涙を流していた。
「俺は……自分という男に自信がない。彼女がいつ別れようと言うのか不安だった。あんたがメッセージを持ってきたときは『ほらな』と思った。俺はずっと一人かもしれない。でも、俺に会いたくなくなったなら……もう会わない方がいいと思った……じゃないと俺は泣いてすがって鬱陶しい男になり果てるからだ」

どうしようか、トキトウが動けないでいると高い声が割って入った。
後ろを振り返ると彼女がいた。
「タキタさん……彼女は悪くないの。あたしが……ごめん」
すると、タキタが彼女を強く抱きしめた。
トキトウは目を見開く。
お互いを抱きしめ会う二人を眺めているといつの間にか横にシジマが立っていた。
「放っておけばよかったんですよ。あなたが行くと余計に事態がややこしくなりかねません。我々の仕事はメッセージを伝えるだけ。そのあとの二人はメッセージの真偽など知ったことではないんです」
「……今回だけはうなづくしかありません」

トキトウは悔しげにうめいた。
シジマと帰路につきながら、さよならの言葉の裏はひとつではないのだと、考えていた。






おわり。

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