さよならメッセンジャー「ハートブレイカー」

 目の前の白いスーツを着た(一見、怪しい宗教の人かヤクザにも見える)男がシジマに微笑んでいる。
実はこの男と会うのは二度目であった。シジマも絶えず笑みを浮かべているが目元がひくついている。
「クライアントはあなたのクライアントに『さよなら』を言い渡しました。なのに彼女に何度もメッセージを伝えるのは辞めていただけませんか。本来なら我々の関与するところではありませんが事件に発展しそうなので忠告だけします」
「私どもは伝言伝えるだけでいいんですけどね。そこをあんたらが関わってきたとしてもこっちは関係ないですわ。伝えるだけなんですから。あんたらも伝えるだけで終わったらどうです?」
「伝えましたよ、あなたのクライアントに。そのときは黙ってうなづいたのに彼女に愛のメッセージを伝え続けるのは如何なものかと、あなたに直接言いたかっただけです」

白いスーツのこの男。実は「さよならエージェンシー」に対抗すべく作られた「恋愛カンパニー」だった(出会い系みたいな名前だ)で、ラブメッセンジャーと名乗るこの男がシジマのクライアントに愛のメッセージをしつこく伝言していくのだ。電話、訪問、電話、訪問。
まるで借金か何かのとりたてのようだと彼女側はノイローゼになっている。
「こっちはお金さえいただければ何度でも愛のメッセージを伝えますよ」
「さよなら、とうちが伝えたのに脈なしなんだから、もはやストーカーの域ですよ。弁護士じゃないんですから訴えるとか庇うとかはできませんが男としてどうかなと思うんです。彼女が警察に言えばあなたの会社摘発されませんか」
「それを言えばあんたたちだって同じことでしょう。私のクライアントだってねぇ、彼女からの『さよなら』を聞いてがっくりきてましたわ。それでも私言ってやったんです。がんばれ負けるなってね」
「何、先導してんですか。そこまでしてお金がほしいですか」
「うち歩合制なのよ」

恋愛カンパニーの男は指で輪っかを作りお金のマークを作ってみせた。
この男がその男にけしかけているから面倒なことになっているのだ。

「さよならさん。巷では噂になってますよ。クリスマス前だしね。まるで死神――」

シジマを見て声をひそめる。

「ハートブレイカーってね」
「ハートブレイカー?」
「そう。愛を壊してまわってんだよ、あんたらは」

嫌な笑みを浮かべる恋愛カンパニー。この男の営業スマイルはいやらしい感じだとシジマは思った。自分もよく人から不気味とも言われるが。
シジマはこの仕事に誇りを持っていた。トキトウもよく言っていたのだ。
『さよなら、で人は人に愛してると次に言うことができるんだからある意味、愛の言葉かもしれません』
それをこいつは。

シジマは気付いたら相手を殴っていた。ファミレスだったので周りの客が悲鳴を上げる。

「あなたこそハートブレイカーにふさわしいのでは!? いいですか、これ以上彼女に近づいてはなりません。彼女の次の恋愛の自由を妨げる権利はあなたになんかない!」
「へへ……いいんですか。警察に通報するよ。暴力されたーって」
「その時はあなた方がやった一連の行動を包み隠さず警察の方に伝えますよ。成り上がりの会社が大丈夫ですかね。聞きましたよ。恋愛カンパニーの売上悪いみたいですね。そりゃそうですよね。好きだと相手に直接言えないような相手を好きになるわけがありません。愛のメッセンジャーを使えば恋がダメになると噂を聞いたことがあります」
「……ぐっ」
今の噂は口から出まかせだったがシジマの言葉に恋愛カンパニーの男は押し黙る。
そして口端の血を拭うとそのまま店を去って行った。

「――こんなつもりではなかったんですが……」

周りの視線が痛い。シジマはすぐさま勘定をして帰ることにした。

ラブメッセンジャー。そう名乗った男の言葉を頭の中で反芻する。
さよならはハートブレイカー。そうなっている時もある。けれどハートを守る役目も担っているのだ……。
心の中で笑うトキトウに、そうですよね? とシジマは問いかけた。



おわり。
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

▲ページトップに戻る