さよならメッセンジャー「終わりと始まり」

君へ

言葉で表すことが苦手だからメッセンジャーに頼んだよ。
自分の口で言えばきっと君を傷つけてしまうから。
メッセンジャーが来たということは、わかってると思うけどこれは別れの手紙だ。
お互いどちらかが落ち度があって別れるというならば君に落ち度はなかった。
あったのは僕だ。
仕事が忙しくてろくに構ってもいなかったし、疲れた夜に君のメールを見てとても返す気になれず無視をしてしまったこともあった。愛があればできる、とは思わなかったけれどそれでも申し訳ないと思うどころが疎ましいとさえ思うこともあった。
考えたらおかしいことだよね。
僕から付き合ってと言ったくせに疎ましい、だなんて。
文であっても君を傷つけているかな。
でも率直な経緯を伝えたかったんだ。
君と過ごした日々は忘れないよ。春は近くの公園までコンビニで買ったお弁当持って花見に言ったね。
そしたら見知らぬ子供がやってきて「こんなとこでどうして食べてるの」なんて言われたりして。
あそこの桜は結構綺麗なのに近所の子たちは身近すぎて美しさに気づかないのだろうな。
夏は君の住んでいた田舎に旅行に行ったよね。
川と森と田んぼと何もない、って言えば失礼だけど入道雲を遠くに眺めているとすがすがしい気持ちとなったよ。森のざわめきを聞いたのは久しぶりだったしセミの声もうるさいくらいだった。
こんなところで君は育ったのか、悪い子には育つはずがないと思った。
秋には一緒に……何もせずに満月を眺めたのが実は僕にとって一番の思い出なんだ。
冬はイルミネーションを眺めてから君の買い物に付き合ったな。君はバーゲンに目がなかった。年末歳末バーゲンの勢いと熱気はすごかったよ。
いつからそんなことをしなくなったのかな。キスをしたのはいつだったか。君が笑ったのはいつだったのか。
思い出せなくなって思い出が過去になって……気付いたから別れたようと思った。

ごめん。

そして、僕なんかと付き合ってくれてありがとう。
その過去はきっと僕のこれからの支えになると思う――」


○ ○ ○

「普通、メッセージを読み上げているときに泣き始めますかね。僕らの役目はメッセージを正確に伝えることだというのに」
「シジマさんは人を愛したことがないから、そう思うんです。非情人間ギャートルズですよ」
「原始人ではありません。ていうか、ギャートルズ知ってるってあなたいくつですか」
トキトウはメッセージを読み上げているときに泣き始めて後半はぐだぐだになってしまったらしい。
メッセージを聞いたメッセージ受取人も泣きだして一緒に目をはらしたとのこと。
シジマは、今までの経験上そういうことがなかった。
トキトウが「いいなあ、あんな手紙いただけたら女冥利に尽きるというものです」なんて所長にぼやいている。
なんとなくトキトウの読み上げたそのメッセージを聞いてみたい気がしたがプライバシーにかかわるので詳細は担当の者以外、聞いてはいけないことになっている。
「その前に彼氏を作らないといけませんね」
「うっ。わかってますよ。でもこの仕事していると恋愛恐怖症になりそうですよね」
「そうですか」

彼氏はいないのか、となぜかほっとしている自分に気づいてシジマは多少自己嫌悪した。


おわり。

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コメント

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アップされて結構すぐに読ませていただいていたんですが、感想を書くのが遅くなってしまいました。

ちょっと関係ない話ですが、どんなお話を読んでも、こころに何かしらの感情が生まれますよね。ほっとできたり、感動できたり、何かに気付かされたり・・・
いろいろありますが、高瀬さんの描かれる物語は本当に私的には読後に得られる感情がとても心地いいといいますか、自分のすきな感情になれるので本当にお気に入りです★

さよならメッセンジャーシリーズは、どのおはなしも短い物語の中にそういった感情がちゃんと得られて、ステキです。
今回のお話を読んでいて、シジマさんが最近私のプライベートでよく交流のある人に重なりました。こういう男性、たまに居ますよね。
外観では感情が読めない感じですけど、実はとっても繊細なこころを持っているという。シジマさんもきっとそうなんだろうな、そして私の同僚の彼もそうなんだろうな、と勝手に思いを馳せました。
そしてトキトウさんとはやっぱりお似合いな気がします!
天然・・・とまで行かず、でも素直な感情表現をするかわいい女性、という印象で憧れます!
いま、メッセンジャーのメンバーとして彼女が居ない理由・・・とっても気になってますが、トキトウさんもすきなキャラクターです。

Re: ★☆★☆

体調不良だったというのにコメントありがとうございます。
さよならメッセンジャーシリーズはそんなに内容ないですがちょっとでも後味残れば幸いです。
サワムラさんのはもっと奥深くに感情のメスを入れてて私はもっと人の心を深く考えなくちゃなあ、と思ったりします。想像だけではなく現実にいる人を思ったり、会話からヒントを得たり。
まだまだ人生経験が足りない身です。

シジマ、というのは現実的な奴じゃない気がしていたのですが確かに『実は繊細』って方はいるかもですね。サワムラさんの同僚さんもシジマ系なら、心に触れるには時間がいりそうですね。

なんか自分のキャラが誰かに似てるよと言われるとそのキャラに魂が宿ったようでうれしいです。
人間味がないと誰かには似ないものですからね。
トキトウはちょっとツンデレキャラっぽくてともすれば嫌われそうなヒロイン系なのでもう少し彼女の話を増やしていければいいなと思います。
返信遅くなりましたがいつも見守っていただきありがとうございます。
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