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さよならメッセンジャー「彼女の話」

「彼女はね……言うなればおせっかい焼きというものなんですよ」
「そうですか」
シジマはクライアントの語る話をコーヒーを飲みながら聞いていた。クライアントの男は酷く疲れた風な表情をしている。落ち着いた風でもあるが、彼は悩んで悩みぬいて出した結果のようだ。
つまり、そのおせっかい焼きの彼女との別れが。
その苦渋の選択を誰かに聞いてほしいのか尋ねてもいないのに静かに話している。いや、彼はこちらを見ずに彼女の残像ばかり追っている。想いを自己で整理するために垂れ流しているに過ぎない。
――こういった行動に出るのは何も目の前の彼だけではなかった。
お別れエージェンシーにやってくる人々は皆、一様に過去や想いを語りだす。

そんな話を聞いていると……シジマは考えてはいけないのに自分の知っている「彼女」を思い出してしまう。
クライアントが相槌など気にしていないとはいえ仕事中だ。
けれど、ふとした日常で「彼女」が蘇るのだ。

「彼女」もおせっかい焼きであった。


○ ○ ○


所長が連れてきた女の子はトキトウと言った。トキトウはまっすぐに頭を垂れた。
「トキトウと申します。今日からこちらでお世話になりますがよろしくお願いいたします!」
「シジマ君、君がしばらく仕事を教えてやってくれ」
「僕がですか」
「他に誰がいるっていうんだ。ぺーぺーは君しかいないだろう? ん?」
所長と自分だけだからしょうがない。新人を連れて仕事はやりずらそうだった。
――彼女の第一印象は、まるで小鹿のような顔をした頭が雛な女だった。
目が大きく、きょろきょろとあたりを見回す癖がある。落ち着きがない。顔立ちは美人なのに勿体無い。
口を開かなければ彼女は間違いなくもてる部類であろうが話せば少し変わっていることに気づく。
ものをあまり知らないし、空気を読めない子なのだ。

そういえば、浮気をした彼氏に別れを切り出すクライアントの女に対して説得をしだしたこともあった。イエローカードにすればいいじゃない、本当にその人と別れていいの?
はたまた、イエローカードを相手に出そうとしているクライアントの男性に対しては「そんな女別れちゃえ!」と言ったり彼女は冷静さをことかくことが、ままあった。
感情に流されやすいのだ。この職業においてそれはいけない。
いけないし……トキトウは別世界の住人に思えた。なぜなら目に見えないはずの愛を信じているフシがあるのだ。
そんなものは一種の錯覚で、若者たちに流行っている幻のようなものに違いないのに愛を消えないとよく言っていた。
バカげたことだと思った。
その頃の自分は今よりも更に冷めた人間であった。両親が喧嘩の末に離婚してから「ああ、こんなものか」と思って生きてきたのだ。
トキトウの言う言葉は耳障りだった。

○ ○ ○

「私は……嫉妬深い男なんですよ。彼女が他の人間にも優しくしてしまうのを耐えられなかったんです。心の狭い男なんです。でも、それを彼女に言うことがとても恥ずかしく思えて。自分で別れをなかなか切り出せないんです。嫉妬で狂いそうで眠れない日々もありました。けれど彼女の前では余裕のある風を装いたいんですよね」

「ええ、わかります」

このクライアントの話を聞いていると自分にも重なるところがあり、どうしても古い傷をえぐる。
好きだから離れたい。離れないと、今にも彼女自身を傷つけてしまいそうだから。男のどうしようもない独占欲を持て余してしまう。
――いや、その前に彼女は消えてしまったのだけど。きらきらと眩しい光を目に焼き付けさせてあっと言う間に。独占欲を出す前に去ったのだから後は予測でしかないが、きっと自分も目の前の男のように別れを切り出したと思う。
無様な姿をさらしたくないから大人であるうちに別れを切り出す。それが冴えたやりかた。
相手にきっちりとお別れをしようとしているこのクラインとが羨ましい。
トキトウに対して自分はお別れの言葉を口にしていない。文字でもいい。なんでもいいから彼女を……解放してやればよかった。

○ ○ ○

「僕は、人を愛せないんですよ」
「いいですよ。それでも私はあなたを好きでいたいんです」

こう言った彼女の横顔は今でも覚えている。最初はトキトウは自分のことを嫌っていた。けれど彼女が告白してきたのは、今だから思うがこちらの想いを汲み取っての慈悲なのだろう。最初に好きになっていたのは自分のほうだ。
白い手を取った。愛なんて信じてないくせに彼女を抱きしめたのだった。

○ ○ ○


「ありがとうございました。つまらない話を聞かせてしまってすいません」
「構いません。またのご利用お待ちしております」
「また、別れるんですか。嫌だなあ、それは」

クライアントの男は苦笑して帰って行った。結局のところ相手にお別れを言うのをやめることにしたらしい。話しているうちに、やっぱり自分が言うべきだと気付いたのだ。
この会社の社員が考えるべきではないが「さよなら」の言葉は相手の目を見て直接、言うのが好ましい。

さよなら、で解放するのは別れを切り出す本人の使命でもあるから。



おわり。
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コメント

非公開コメント

高瀬さん、こんにちは。
「さよならメッセンジャー」読ませていただいてます^^
今回は視点が違うのと同時に、シジマくんの人物像が段々と浮き上がってきてますよね。
作品内で扱う「さよなら」の解釈が非常に興味深く面白いです。
ショートの連作というのがすごいですよ。ネタが尽きるまで是非是非続けてください^^

ところでお勧めだった「海月姫」読みましたよ。
しかも5巻まで一気読み。
とっとも楽しく面白くって気持ちのいい作品でした!
しかも、そのまま続けざまにYouTubeでアニメ版を観てしまいました。
ベンツ大好き花森さんの声優さんがイメージピッタリですv-218
同じく東村アキコさんの「ひまわりっ」も笑えるんで機会があればぜひe-291

Re: こんばんみー!

deltaさん、読んでいただきどうもです!
「さよならメッセンジャー」目標は年内にいくつか小話書いて完結できたらいいな♪と思っていたりします。
年内、って言ってももうあとちょっとしかないんですが、お暇なときにでもまた読んでやってくださいな。
調子にのって何話かは続いたりします。

海月姫早速読んだのですか! 読みやすいしおもしろいから私もまとめて買った派です。私はまだアニメ見ていないのですが結構好評のようです。花森さん、かっこいいのに口軽いわベンツしか見てないわ勿体ない人ですよね(笑)
声優ぴったりということでDVD出たときにもまとめてみようと思います。
deltaさんは三国志ネタ結構わかるから三国志マニアの人とかおもしろいのでは……わからなくてもおもしろいですが。
「ひまわりっ」もお勧めということで、まとめて買わなくては~あの作者さん色々描かれてますよね。ちょっと注目の作者さんですねぇ。
あ、掲示板にのっけてた手帳良い感じのを見つけましたね。ダディのもってそうな奴ですよ。くれぐれも落としてネタを拾われないように!

こんばんは。
今回はシジマさんの想いにかなり掘り下げてあり、深いお話でしたね!

そして彼の職の存在意義をも揺るがす結論が。。。 

トキトウさん、なんだか素敵な女性です。一瞬にして憧れてしまいました。
彼女とシジマくんの物語と、さよならメッセンジャーの仕事ぶりに期待しつつ、また楽しみにお邪魔しますね~☆

ヤッホー♪

こんばんわサワムラさん!コメントいつもありがとうございます。

今回は本編という感じになりました。そこまで練りこんでないような話ですがさらっと読めるようがんばろーと思ってます。つまりネタの小出し(爆)あとトキトウがいた頃の話いくつか書こうと思うのでしばらくお付き合いください(^w^)サワムラさんの短編連作、私も楽しみにしていますよ。
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