さよならメッセンジャー「たった一言のメッセージ」

『さようなら』

「……たった、それだけなんですか?」
『はい。クライアントから預かったあなたへのメッセージはこの一言だけです』
「いや、そんな有り得ないですよ。だって僕らは7年付き合ってきたんですよ!?」
『って、言われましてもね~。あなたの方に落ち度はなかったんですか?』
「落ち度ってなんですか」
『彼女を怒らせる何かですよ。あるでしょう?』
「……」

 
彼はプラスチック部品を作っている工場の現場作業員であった。制服からは油や塗料のにおいがしている。それを彼女が嫌っていたのかもしれない。

――いや、制服を洗ってくれと頼んでもないし、同棲もしてないんだからそれは別だろう。
それとも、いずれ結婚する男が工場勤務であることに将来の不安を覚えたのか。
「彼女は僕がしがない工場の作業員であることに別に文句は言ってなかった……」
『本当ですか? 本当にそうなんですかね?』
「浮気だってしてない! だいたい僕みたいな人がもてそうにないでしょ?」
『まあ、私はあなたの顔を知らないので何とも言えないわけですが。今回は電話のメッセージのみをご希望されましたので。あなたに会うこともございませんし。それではこの辺で……』
「待って! メッセージを頼む際に僕のダメな点を彼女何か言ってました?」
『全く、しょうがない人ですね。あなたは。ヒントだけさしあげましょう』
「あ、ありがとう」
電話相手である「お別れエージェンシー」という会社名の男は勿体ぶってから言った。
『何気ない会話をしましたね。将来のことを恋人同士が語りあうよくあることです。その時にあなたは決まって彼女に何かを希望されてましたね。それは何でしたか?』
「僕が、彼女に――」
すぐさま、自分がいつも彼女に語っていた夢を思い出す。
彼はまさか、と思ってすぐさま電話を切った。

工場の休憩中に携帯にかかってきた電話。仕事に戻るよりも彼女を優先するため早引きすることにした。
上司は忙しい時にともちろん怒ったが彼の真面目な顔に負けて届けにハンコを押してしまう。

彼はすぐさま走りだした。彼女は病院で看護師をしている。病院まで走って勤務中だけど言わなくてはならない。

さようなら、なんて僕の目を見てから言え。
子供ができないなら犬でも飼えばいい。
二人でかわいい夫婦になれればいい。
君に子供ができないとしても別れる理由なんてものにはならない。


「そんなことで、さよならって離れるんなら離れないように僕は……結婚してくれって言ってやる!」


○ ○ ○


電話の受話器を置きため息をついたスーツの青年に上司である中年の男性が声をかける。
「シジマ君。だめだよ、メッセージ以外のことを伝えたら~」
「すいません。あまりに相手の方がしつこくて」
「しつこくて油っこくてもだァーめ!」
「……申し訳ありません」

少しうつむく青年。だがその顔は笑みを浮かべているようだった。このシジマという青年は営業スマイルともとれる笑みを崩すことができないでいた。
それは一見、不気味でもある。

「まあね。君が人の感情のことを考えるようになったことは認めるよ。最初は冷たい男だったものなあ、君は」
「そうでしたか?」
「そうさ」

上司の男は席から立ち上がると伸びをして部屋を出て行った。この会社の従業員は上司と青年だけの二人しかいない。上司の男もさよならのメッセージを伝えに出て行ったのだ。
シジマは、次の電話をかける。

また、誰かの「さようなら」だ。
彼は「さようなら」を言うたびに胸が少し痛くなる。
それは、さようならを言われた人のことを哀れに思ってではない。自分の中にいまだ居座り続ける“彼女”の残像がそうさせるのだ。さようならを言って別れることができるのは幸せなことなのだ。

シジマが聞きたいのは“彼女”からのさようなら、だった。




おわり。
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コメント

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待ってました!

おひさです!
前作に引き続き、連作モノで心踊ってるサワムラです。
謎めいた笑顔のメッセンジャー。ってキャラクターもツボですが、彼が通り過ぎるように関わる人々のさよならのドラマ、なんてテーマもステキすぎます!
さすが高瀬さん、私の趣味を突いてこられます……(笑)

今回のストーリーは光が見えていて、ほっこりしました。(この、見えていて、で止まっているところも好きです)

多くを語りすぎないところがSS連作の魅力ですね。 

そして、メッセンジャー自身にもドラマがあると匂わせてエンド。
めっさ続きが気になります!

また、読みに来ますねw 
まじで楽しみにしてます~☆

(そして、アップされてすぐ読んだ1作目にもまた語りに行きます☆)

Re: いつもありがとうございます!

いつもいつも温かいコメントありがとうございます。
全く久しぶりなんてことはありませんよ、こまめにコメントいただいており頭があがりません。私の方こそ毎回久しぶり、から始めなくてはいけないほどです(汗)
今回の話はツイッターでそんな職業があると人の呟きを見て知り、ネタにしたらおもしろそう書いてくださいよ、と丸投げしたら「あなたも書きなさい」てなわけでできあがった話だったりします。なので実は「さよならメッセンジャー」ってイギリスだったか発祥で本当にあるんですよ!

オムニバス形式ですがさよならメッセンジャーの男を主人公にしてみました。じゃないと終わりが見えないので、彼の過去があばけたくらいで終わらそうかなと。
一話一話軽く読める程度に書こうと思うのでおつまみ程度に読みにきてみてくださればうれしいです。
サワムラさんのブログにも早速遊びに行きますのでそれでは、また~~★
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