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さよならメッセンジャー「バカな女とバカな男」

鼻歌を歌いながら彼のために早起きをして朝から弁当を作っている。
マニキュアを塗った手で料理をするのを嫌うのでもちろん何も塗ってないし顔には化粧すらしてなくて彼女は一生懸命にタコさんウィンナーをフライパンで焼いていた。
同棲している彼があくびをしながら起きてきた。お腹をかきながら半眼のまま聞いてくる。
「何してんの、こんな朝早くから」
「あ、おはよう。ユキオのためにお弁当作ってんだよ。うれしい?」
「バカじゃねぇの。昨日も言っただろ。今日は会社で弁当出るって。お前本当、俺の話聞いてないのな」
「そうなの? じゃあ、お弁当は――」
男――ユキオは服を着替えながら「いらね」と言った。卵焼きもうまくいったし、好きな赤シャケも冷凍食品じゃなくて本当に焼いて作ったし、煮物だって。
尚も食い下がる彼女だったが彼は、顔を洗いながら聞き流す。そして、こげ臭いにおいがしてから慌ててフライパンの火をとめる彼女にユキオは言った。
「ハルミって本当バカだな」
ハルミってバカだな、は彼の口癖だった。
彼女はこの口癖が本当はとても嫌いなのに、いつも「そうだね、あたしってバカだよね」しか言えないでいた。

○ ○ ○

会社から帰れば見知らぬ男が部屋にいた。そこに彼女――ハルミの姿はない。
「誰、お前。警察呼ぶぞ。てかどうやって入った?」
そこにいた青年は(自分と同じくらいの年齢だろうとユキオは思った)張りついたような営業スマイルを顔に浮かべており、スーツを着ていた。訪問販売をハルミが入れてしまったのかとも考える。
ユキオは名刺を受取った。
「『お別れエージェンシー』? んな、会社あんのかよ。で、お前はさよならメッセンジャー?」
「はい。恋人に別れが切り出せないクライアントに代わって私どもがさよならを代行させていただこうというものです」
「はっ。あいつが俺と別れる? で、ハルミはどこ行ったんだよ」
「さあ。プライベートなことまでは知りません。ただ、先ほど荷物をまとめて出ていかれました」
「何?」
「それはともかく。彼女からのメッセージをお伝えさせていただきます。よく聞いてくださいね」
「そんなことより――」
ユキオがさえぎるより早く青年が笑みを浮かべたまま、言葉を紡ぐ。さほど大きくないのに青年の声はやけにはっきりとユキオの耳に届いた。

「ユキオへ。 あたし、バカじゃないよ。いつもバカバカって言うあんたのがバカなんだからね。あんたといるとあたしダメになりそうだからメッセンジャーに頼んだの。あんたを前にすると口がまわらなくなって金魚みたいになってしまうから。あんたのバカっていう言葉はまるで呪いだわ。だって、あんたに言われると本当にバカなのはあたしかもって思っちゃうの。でもそんなことない。あたしは、あたしのことをちゃんと、わかってくれる人のとこ行くわ。じゃあね。さようなら」

ユキオは青年の胸倉をつかんだ。そして怒声をあげる。
「これじゃあ、本当の別れみたいじゃねぇか! あいつ、お前にそんな言葉だけ残したって言うのか!」
「はい。実は相手に警告だけするイエローカードなるものもあるのですが今回ははっきり「さよなら」のメッセージの方を選択されました」
「ふざけるな……! つうか、お前出てけ!」
乱暴に青年を突き飛ばし、頭を抱える。青年は怒鳴られても笑みを絶やさぬまま部屋を出て行った。
ユキオはハルミを追いかけようと、立ち上がる。
立ち上がって、靴をはこうとしたところで、はたと動きをとめる。

「あいつ……いつもどこ遊びに行ってるんだっけ」
そういえば、最近のハルミの行動範囲を自分は知らないことに気づく。親しい友達も知らない。もちろん実家も知らない。なのに、いつかは結婚しようと思っていた。こんなバカな女は俺が守ってやらないと、と思っていた。
料理も下手で、火事になりそうになったこともあった。だから弁当も作るなと言っていた。
できないくせいに凝ったものを作ろうとするから寝不足になるのはわかっていたからだ。包丁で手を切ったこともある……。
冷静になってきて、行く場所もわからないなら出て行っても無駄と考え戻るととりあえず椅子に、腰掛ける。
ユキオの目にあるものが止まり、頬を一筋の涙が伝っていった。



テーブルの上にはいらないと言ったはずの弁当が置いてあった。





おわり。
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コメント

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拝読しました!

twitterで更新を知った「さよならメッセンジャー」、やっと読ませていただきました! なるほど、高瀬様のメッセンジャーはこういう仕事の仕方をされるんですね。私のイメージと違っていて面白かったです。代筆の口語バージョン、みたいな。できることが広がります。
口下手、とか言わなくても分かる、なーんてあぐらをかいて思いやりを表現する努力を怠る、ユキオみたいな人間は私は大嫌いです! 人間なんだから言語を駆使して気持ちを表に出さなくては伝わらないんです。それが苦手な人のために、さよならメッセンジャーが走るんですね。
つぶやきをこんなに素敵に広げてくださってありがとうございました。私も書きます!

Re: 薊野さんのも楽しみ!

薊野さんの呟きから始まったわけですが、その呟きまでそんなおもしろい職業があるなんて知りませんでした。なんかロマンチックでそこから人間ドラマが生まれそうですよね。薊野さんのイメージと違っていてよかったです。割と真正面からこの職業をひねりなしに捕えましたが同じ職業をネタにしてどうアレンジされるのか楽しみです。ユキオとハルミの話は第一話(実は何話か続いたりします)なのでどんな雰囲気で展開していくのか紹介みたいな話で書きました。二話目となんとなく似ている気がしないでもないですが、さよならメッセンジャーの難しいところは薊野さんも以前ちらりと呟いておりましたがオチがすべて似通ってしまわないか、に限ると思います。
私は割と横柄な人が嫌いですが、最初ユキオは嫌なやつで終わろうと思っていました。が彼は彼なりにハルミのことを考えていた的なことにしちゃいました。キャラに鬼になれない私です。

ではでは、近々「できたよ~」の呟き待ってますので!
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