後悔なんて俺はしないと思ってた。

彼女とは大学の講義で席が隣になったことから知り合った。
いや、それが彼女と知り合った理由にはならないだろう。正しくは教授が出席をとる際に彼女の名前だけ呼ばれなかったので本人に後で確認したら彼女はこの大学の生徒ではないとのことだった。
彼女はその頃まだ高校生でこの大学へは学校を勝手に休んで講義に参加しているとのこと。
きっかけといえば、彼女が勝手に講義に参加したことに対して俺だけが気付いた、といったところだ。

きっかけなんてことはどうでもいい。俺と彼女は次第に付き合うこととなった。
俺から告白なんてことはしておらず彼女からだった。
だが、俺は女の子と付き合うよりも男友達とボーリングは行きたいし、女友達とカラオケにも行きたいし、好きな映画館へは一人に行きたいタイプだった。高校生である彼女と俺が一緒にいる理由を無理に作る必要などなく俺はあくまで付き合う前と同じように過ごした。
だからといって彼女が不満を言ったような記憶はない。

× × ×


雨が降っている。俺は黒い参列に並びながらどうして自分がここへ来れているのか不思議だった。
まるで白黒の悪夢のように静かに時間が流れていく。
「このたびはお悔やみ申し上げます」
俺と彼女はごく短い間つきあっていただけだから両親は俺の顔など知らないのだろう。名前をあげれば「ああ」と頷いた。名前くらいは彼女は口にしていたようだ。
やつれた表情で壊れた人形のようにただ頷いているだけの両親を通りすぎ、いまどき珍しく家での葬式だから畳のある部屋に通され菊に飾られた遺影を眺める。
彼女ははにかんだように微笑んでいた。よくこんな顔をしていた。
俺達はすぐに別れたのだから、よくこんな顔をしていたなんておこがましい気もする。俺は彼女の何を知ったつもりでいた。

× × ×

「ね。あたしね。就職することになると思う」
「大学へは行かないつもりか?」
「うん」
「本当は行きたいんじゃないのか」
「うん。でもしょうがないの」

経済的な理由だろう。俺はよく聞かずパソコンに向かってインターネットを眺めていた。人からはよく冷たいと言われる。俺としては一緒に俺の時間を共有しているだけで彼女には優しくしているつもりだったがそうではなかったのだろうか。それ以上、何をするば良かったんだ。
高校生の彼女の制服を脱がせて欲望のままに抱けばよかったのか。
そんなことをすれば彼女はきっと俺から離れる。
――少なからず俺は彼女のことを好きだった。離れるのはいやだと思っていたのだ。

× × ×

友人からその電話は来た。俺の友達と彼女はメアドを交換していた。俺も彼氏なんだから交換していたがいちいちおはようだの、暇ーだの、何しているの? だのくだらない返事はしない主義だったからほとんどメールを交わした記憶はない。必要なときだけだった。
大学の俺の男友達と彼女は親しくしていた。というのもよく俺の行方を友達に聞いていたからだ。電話もしていたらしい。俺のネタでもりあがったりしていたとか後で聞いた話だ。
その友達にも彼女がいるので、俺の彼女はいわば妹みたいな扱いだったらしい。よく「高校生に手出すなよー」とからかってきた。それも時折、うざく思っていたが今は酷く懐かしい。

『彼女、事故で亡くなったらしいぞ。飲酒運転の車に横断歩道ではねられたんだ』

別れたあとで友達と彼女は交流があったから両親が知らせてくれたのだろう。
俺にはもちろんなかった。

× × ×

もっと俺に何をどうして欲しいのか言って欲しかった。少なくとも俺と彼女は意見のぶつかりあいやケンカをしたことがなかった。
意見を言ったとしても俺は彼女よりも優位にたっているし義務は果たしていると思っていたから別になんとも思わなかっただろうが。
俺の中の彼女はいつだって俺に微笑んでいる。
死ぬなんて卑怯だ。他の顔がこれから見ることもないし、想像することもやめなければいけない。成長した彼女の顔を思い浮かべれば後悔とか悲しみが襲ってくるだろう。

悲しみが襲う。
俺は気付けば泣いていた。隣で無言で友達が肩を叩く。
もう人と付き合わない。こんな胸を締め付けられる思いは煩わしく俺の自由を奪う。
どうして付き合ったんだ、どうして死んだんだ、どうして俺はこんなに冷たいんだ。

ようやく涙が出たのか今更。


× × ×

『さようなら。私は・・・・・・あなたに合わなかったのね』

× × ×

彼女からの最後の言葉を聞いたときも俺は泣かなかった冷たい男だった。
人と付き合うに値する奴じゃなかったんだ。いつまでだって一人で自由を満喫していればいい。
自由とは孤独なのに、俺は中途半端にさみしがりやで彼女に甘えていただけに過ぎない。

なんて愚かな男なんだ。
もう恋なんて二度としない。
後悔ばかりが――後悔だけが、俺を支配している。

黒い世界でそう思った。



おわり。
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コメント

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またお邪魔しています。 

何だか考えさせられて、凄く興味のそそられるショートショートでした。

少女はいつだってミステリアス。
男は淡々と日々を送っている。

そういう世界観、すきです。

自由とは孤独。

このコトバ、本当にその通りだと頷きました。
あたしも自由を手に入れて、孤独に飛び込んだんだな、と最近感じています。


またお邪魔しますね☆

Re:うわっありがとうございます!

真面目なのに誤字とかあったりしてちょっと申し訳ないですが、読んでいただきありがとうございます。
しかも内容暗い……。
淡々とした男の口調と、葬式のシーンかけたらよかったのです。
あとなんか星座本でこんな風な特徴を書かれている星座を立ち読みしたことからこの話が想いうかびました。
何座のことなのかはご想像に任せます。
書いてすぐにコメントいただけてうれしかったです。
~あたしも自由を手に入れて……ということは何やら意味深発言ですね。普段、男性と事務的な会話しかない私とサワムラさんでは、このショートは全くとらえ方が違うのだろうなと思います。
私にとってこの話はあくまで想像の域を出ませんが苦しい感じはサワムラさんは味わってそうですね。
勝手に推測ってみました(笑)
それではいつもありがとうございます。
こちらからも挨拶に伺います!
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