桜雨、幻想の騎士

彼女は憂鬱そうに窓を眺めた。
桜は、蕾を膨らませていたが、この雨で満開を見る日は伸びてしまうのだろう。別に桜を見に行く予定をしているわけでもない。
なのに少し残念に思う。

「この春で篠原部長は昇進らしいなあ・・・周りに担がれて位ばかり大きくなる」
「はいはいと言うこと聴いているだけだからさ。要は歯向かうかそうでないか。上は操りやすそうな奴に位を与える」
「うちの部署はそうはいかんわなぁ・・・」

彼女の耳に昇給に関する愚痴が聞こえてきていた。春らしいといえば春らしい。聞こえないフリをしながらパソコン入力作業をしていく。
向こうの席では、高校合格したのにも関わらず、家出した娘の捜索で携帯の離せない男性がずっと喚いている。向こうの席では春から彼氏ができたことを自慢している女性社員の華やいだ声。
電話のコールが煩わしい。

終わらない仕事はない、と誰だったが言っていた。けれど私の机の伝票は消えない。電話も鳴らない日はない。

と。

「・・・・・・う、わっ!」

誰かが窓を開けた。その瞬間、雨の音、風が巻き上がり書類が舞い上がる。
私の目の前に白い馬が現れた。馬の蹄が書類を踏み散らす。その馬上にいるのは、金色の髪をした騎士だった。
甲冑を身に着けた彼はこちらを見下ろす。
鋭い目をしていた。

『お前はそんなに仕事が嫌いなのか、職場がいやなのか、人が嫌いなのか、全てが嫌なのか?』

「いえ・・・・・・そんな、私は・・・・・・」

『だったら、不平不満を言う前に行動を起こしてみろ。仕事を消してみせろ。そこらにある愚痴を一笑しろ。戦ってみろ、それからだ。何もかも』

窓が閉められる。幻想の騎士は消えた。
書類をかき集めながら、私はぐっと唇を結んでみた。

そして腕まくりをして机に向かう。



おわり。
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

▲ページトップに戻る