雪の降る日に。

「もう、会えない・・・・・・、いや、会いたくないんだ」

蛍光灯の光のせいか、漆黒とはいえないぼんやりとした空から雪が降ってきていた。微かに積もり始めており屋根や停まっている車、やせほそった街路樹、アスファルトの上、私の靴、あの人の肩。

別れの言葉も雪にすぐに吸い込まれてしまう。
あの人が言葉を放ったあと白い息が余韻で残る。

紺色のコートがこちらに背中を向けて去っていく。白い雪の中に一歩一歩大きな足跡が刻まれていき、またその上にも白が次々降り注いでいく。
やがて、その足跡も消えてしまうのだろう。別れの言葉もすぐに消えたけれど、私の中で何度も繰り返される。

あの人の笑顔。触れた手。低い声。私の髪を触る癖。
今すぐ、会いたいと言ったその口で、会いたくないと心底冷たい声音で言ったのだ。

私は涙を流した。
何も、しんしんと雪の降る夜に別れ話をしなくてもいいじゃない。
寒くて空しくて、早く動きたいのに動けないでいる。泣き崩れる一歩手前だった。
せっかくカールした髪にも雪が落ちている。ここで膝をついてしまえば更に私がかわいそうになる。

鼻が熱くなりつんと痛くなって、もう本当に悲しくなった。




「どうか、したんですか」



パーカーを着た青年が黒い傘を差し出した。
私は目を見開く。女性が泣いているだけで傘を差し出す、そんな紳士な国ではない。なのにこの青年はどうしたのかと尋ねてくれたのだ。
「あの・・・・・・どうして、」
逆に私が聞いてしまう。

青年は傘を差し出した手とは逆の指で頬をかいた。
「雪の日に、なんか泣いてて傘も無くてかわいそうだから」

簡潔な答え。
そうだ、どうしても何もその光景は哀れだ。



「――そうよね、私もそう思っていたのよ。雪の日に彼氏に振られて泣いているなんて、ね」
「そうですよ、あなたを振って雪も降って誰もいいことありゃしませんよ。こういう日は早くうち帰ってあったかいラーメンでもすするのが一番」

「そう。そうだわ、その通りね」

私はその青年の傘の下でようやく頬に温かみを取り戻した。
これからのことは後で考えて今日は雪も降ってるしラーメンでも自棄食いすることにした。



おわり。
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