ジンクスの女

ちょっと思いついたの小話。大したことないのでこちらにー。



「ジンクスの女」


 少し、女々しいかなと思うが俺はジンクスを信じる。
俺にとってジンクスなのは、「ジンクスの女」をその日の朝、見れば不幸なことが起きる、というものだ。

ジンクスの女は、ちょっと暗そうな女で黒髪が長く(ちょっと、うつむき加減なのもいけない)肌は青白い。筋肉があるのか疑いたくなるほど手足は細い。

「げ」

その日もジンクスの女と目があった。出勤して10分もたたないのに。
今日は大人しくすごそうと考える。
そこへ彼女のショウコが現れる。彼女は誰にでも気持ちよく話せる仕事もできる快活なやつだ。

「何が『げ』なの?」
「あ、ああちょっとな・・・・・・」

ジンクスの女(これは自分だけが呼んでいる)のことは誰にも話していない。
迷信を信じるくだらない奴だと思われたくないからだ。

「ねえ、ところで今日あいてる?」
「あいてるけど」

胸が高鳴る。もしかして結婚のことだろうか。そろそろだとは考えている。
でも、まさか彼女から言ってくるとは。

「じゃあ、今夜7時にね。あの店で待ってるから」
「ああ」

ジンクスは間違っているのだろうか。顔が自然にやけていく。
俺は内心、ガッツポーズをとった。





PM 7:10

まさか、席について10分で「別れよっか?」と切り出されるとは思わなかった。
突然のことで俺は呆然としたまま、軽やかに去っていく彼女を見送る。
なんて清々しそうな・・・・・・。

店の窓からジンクスの女が会社から帰ろうとする様が見えた。
俺は怒りが沸点に達し、走った。
そして驚くジンクスの女に言ってやる。

「なあ、なんでだよ! どうして俺の邪魔ばっかりする? そんなに俺を不幸にしたいか!!」

ジンクスの女は落ち着いたまま言い放つ。何のこと、とは切り返さなかった。

「私はあなたが不幸にならないよう不幸な日の朝はちょっとでもマシになるようなおまじないをかけているに過ぎません」
「これのどこかがマシなんだよ! おかげで彼女にふられたぞ、くそっ!」
「彼女は・・・・・・二股をかけていますよ」
「は?」

ジンクスの女が去っていく。俺は信じられないまま、その言葉だけが頭の中を反芻していた。


翌日。
同僚の片下にショウコが二股をかけているという噂があるか尋ねる。
片下はそれを聞くといきなり。

「くそー・・・・・・4ヶ月だったか」

とくやしがった。何だか嫌な予感がする。
片下の胸倉を掴む。

「おい。ど・う・い・う・ことだ」
「悪い。悪い。二股どころか五股くらいしているショウコちゃんっていやあ有名で。お前が俺の部署で最後の餌食だからかけていたのさ。何、恥ずかしがることはない。みんな踏んでいく道だ」
「で、それで賭けていたというのか。お前はどのくらい続くと賭けた」
「結婚願望が強くなるまでばれないと思った」

俺はとりあえず、そいつを殴っておいた。
と、ジンクスの女と目があう。彼女は違う部屋の社員だがよくフラフラしている。

つかつかと歩み寄りジンクスの女に言う。

「ありがとうな。とりあえず君の名前を教えてほしい」

俺は彼女の名前すら知らなかった。

「いいんですか。不幸の象徴の名前を知って」
「名前は?」

にやりと微笑み、彼女は名前を言った。
とりあえず俺の中で、ジンクスの女は『杉下由紀』と変換された。




「ところで、どうして俺の不幸をいつもマシにしてくれるよう、おまじないをしていたんだ?」




おわり。

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