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あいのかたち

私は“先生”の一太刀で派手にスっ転んだ。
先生が持っているのは真剣ではない。
ただの棒切れなので私は横腹に激しい痛みを食らっただけですんだ。

だけですんだ、というのは表面上のことで死ぬほど痛い。

「先生、もう少しお手柔らかにできませんか……」
しばらく呻いたあとに私は声をしぼりだした。
私がいる傭兵部隊は戦争孤児である子を見かけては拾って養っている。
養う、というより部隊の人数を増やしている。
私もそんな中のひとりであった。十五歳で親を亡くし、さまよっているところを先生に拾われた。
お腹が減って意識が朦朧としていたときに助けてくださったのだ。
倒れた私に差し出した手を今でも覚えている。

私は女の子にも平等に剣を教える先生を尊敬してはいるものの、少し厳しすぎるとも思っていた。
滅多に笑わない先生は暗い表情をしており、冗談が全くきかない。
だから、指導中に転んだ私をもちろん助けおこすことなんてしない。
立ち上がるまで、じっと見ていた。

「甘えるな、って言うんでしょ。でも、親を亡くしてから私は愛に飢えているんです」
「よくまわる口ですね。元気じゃないですか」
呆れたように先生。
頬の皺が一層濃くなった気がする。

私は仕方なく立ち上がる。
そして、剣を構えた。
勢いよく声を出して先生に立ち向かっていき、正面から剣を振り下ろす。
さらりとそれを交わす先生は丸空きになった私の背中に棒を容赦なく打ち込んだ。

「あっ、いったっっ……!!」

またもや派手に転んで泣きそうになる。
先生はまた大きくため息をついた。

「正面から行って私が避けないわけがないでしょう。何度注意すればわかるんです」
「飽きてます、疲れました、体中ぼろぼろです、お腹減りました」
「練習に飽きたも何もないです。あなたの命を守るすべです。これが私の優しさだといくら言えばわかるんですか」
「うっ……」
「泣き真似をしたら私はあなたを見離します」
「ぐ」

私は出かかった涙を呑みこんだ。嘘泣きだけど半分本気で泣きそうにはなった。
本当に体中、辛い。
先日、嵐の中森で別部隊と戦うことになったのが尾をひいている。
私は誰も倒せず、足をひっぱらないようにひたすら走っただけだったけど、あの日は本当に怖かった。
怖くて、不安だった。
不安だったのことを気付いたから、先生は指導に熱が入ったのだと思う。
うん、わかっている。
先生は私のことを思っているし、これはこの人なりの愛なのだ。
私が考える形と違うだけ。理想と違うだけ。

「先生」
「なんですか。続きをしますか」
「好きです」
「…………」

あ。しまった。
と思ったときには後の祭りだった。疲れすぎて無意識に言葉が出てしまった。
私は転んで地面を向いたまま呟いたので先生の顔は見えない。
けど沈黙が痛い。
やだな、一撃が飛んでくるな。冷ややかな目で蔑むんだろうな。
恐る恐る顔を伺う。

――先生は口を押えて顔を赤くしていた。

「うそ……」

その顔は不意打ちでしょ。すっごい年上のくせに反則だわ。
私もつられて顔が赤くなっていった。
先生は突然の告白に弱いことがわかった。だめだ、かわいい。
先生、大好きかもしれない。

「疲れましたね、しばらく休憩を挟みましょうか……」
「いえ、やります! ご指導お願い致します!」

バネのように飛び起きて剣を構える。習ったように基本の足の並び、剣の構えに戻す。
この人に愛を返すには剣の上達しかない。
私はこの時、強くそう思った。



おわり。




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