壊れないもの。

たくさんのコードが体のあちこちからはみ出ている。
美しい少女の形をしたアンドロイドは敵を前にして、すでに瀕死の状態であった。
とれてしまった右腕。左腕は数本のコードでかろうじて繋がっているだけ。
左足は足首がなく傾いて立つ。目は微かに火花を飛ばして抉れていた。

死という表現はふさわしくないのかもしれない。命など最初から宿っていなかったのだから。

けれど、祖父から譲り受けた、僕を何者からも守るはずの彼女が必死に戦っているのを見て、僕は身の危険が迫るからだけじゃなく彼女の喪失を一番に恐れている。
敵は僕の命、いや頭脳さえ手に入れば満足するのだから。
祖父から受けたのは膨大な知識。僕の頭にある未来に向けた技術。

敵に渡してしまえば悪用されるのはわかっているのに、ひどく個人的な感情から、僕は死んでもいいとさえ思っている。
彼女には助かってほしい――。

「もう、戦うなっ、これは命令だ……!」

気付けば叫んでいた。
高層ビルの上。眼下には無数の光。夜景を眺めている余裕もなく、追い詰められた僕は力の限り叫ぶ。
冷たく癖のない青色の髪が微かに左に揺れた。
彼女はこちらを向かぬまま、答える。

「人もアンドロイドも、いつか壊れるのです。でしたらわたくしはこの身を壊してでも理解できた愛を守り抜きたいのです」

答えた瞬間。姿勢を低くして彼女は相手の懐へと入り込み、敵の巨大な鋼鉄の腹に拳を叩きつけた。
衝撃は受けたが敵は彼女の細い体を両手でつかむと高く持ち上げて叩きつける。
動かなくなった彼女。片方の目が点滅を繰り返す。

僕は現実が信じられず目の前の出来事をただじっと見ていた。
いつか壊れる。たしかにそうだ。人もアンドロイドも。そして愛さえも。

裏切ったのは君じゃないのか。守り抜いてないじゃないか――。

敵の腕が僕に差し掛かったとき。壊れたと思われた彼女が敵の側面から現れて僕の腕をつかんだ。
そして高層ビルの上から飛び降りる。

風が叩きつける。僕は彼女の判断を悟った。
無い腕に抱きしめられる。笑った彼女は今までみた人間よりも清らかであった。
慈悲に満ちた、あたたかいもの。

衝撃が来る。彼女の体は僕を支えて下半身が崩壊した。
全ての衝撃を受けて壊れる彼女、地面に転がる僕。そのままふたりとも動けなかった。

僕は彼女の死を今度こそ実感した。腕で顔を覆う。
ヘリコプターの明滅する光。上から見下ろす敵。

「僕はあきらめないからな……君にもう一度会いたい……そのための知識だろ、じいさん……」
なにかに八つ当たりしたくて僕はクソっと叫んだ。
カンパニーのメンバーが僕を保護する。助かった、なんて少しも思えなかった。

無力なのがひたすら惨めで悔しかった。


おわり。

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