世間には残念な女子がたくさんいるけど関わるのはごめんだ その9

白百合女学院は、本当に女子校だった。
女子校に嘘も本当もないが、女子校だった。
その証拠に教員以外で高校男児を間近で見るのが珍しいのか、八千草の後ろを歩く僕は「好奇の視線」による集中業火を浴びていた。
視線が痛い、とはこのことだ。
今だけ、女子になりたい。

こんな想いまでして女子校に乗り込んだ理由を僕は思い出す。
確か、恋愛相談部とやらに巻き込まれて――これは戻りすぎか。ともあれ、それの依頼者である枕崎というチャらい奴が山田紀子という文学系女子にラブレターを渡して告白した。
そこまではいい。
だが、山田紀子の返事とやらが、この僕を指差して「こいつと友人なら付き合えない」と、おっしゃって。
その理由というのが、昔に僕がツイッターしていた頃にフォローしていたツカオンに酷い仕打ちをしたとかで、山田紀子は親友を傷つけたお前を許さないとのことらしい。
ツイッター上のごたごたが、まさかリアルに反映するとは思わなかった。しかも中学時代の話だ。

人生、長いこと生きていると何が起きるかは、わからないなあー……まだ若いけど。
ともあれ、紆余曲折を経て、僕はここにいる。

八千草は山田紀子から聞いていたクラスの前まで来たのを確認して、息を吸った。

「たーのーもおおおおおお!!」

やっぱり、その道場破りのような教室の尋ね方なのか。八千草は躊躇なく教室に入った。
僕も気まずいが、その後ろについて入る。
教室で談笑している女子たちが一瞬にして、こちらに向いた。
山田紀子のときも、こんなだったけど、どうして八千草は平気なのだろう。
……きっと兵器なのだろう。

ツカオンは、僕に過剰な感情を寄せていたため、顔写真を他人に送られたことにより「よそよそしくなった」と勘違いしたことから、疎遠になってしまったネット上の友人だ。
ツカオンの写真は山田紀子から、もらった。
僕は恋愛できない体質だから、好みも何もないが、世間的に「かわいい」部類ではない顔だった。
ちょっと暗そうな顔色の悪い女子だった。笑って血色良くしたら、わからないけど。

「ツカオンは、あなたね?」
写真の少女は、他の友人と一緒にいた。八千草がびしい、と指を指す。
ツカオンは机に座って、そのまわりにいる女子が目つきを鋭くした。

僕は覚悟を決めて、前に出た。

「ツカオン、僕は君と昔、ツイッターをしていた“ナルト大橋”だよ。あのときは勝手に縁を切ってすまなかった」
「ぶっ」
八千草はいきなり噴出した。
アカウント名は言いたくなかった。
成瀬博人だから、ナルトで良かったが、ナルトはすでに居たので大橋を付けたのだ。ナルトにこだわらなくても良かったが中学生の頃は絶対に使いたかったのだ。
某アニメが好きだったような気がする。

ところが、ツカオンの反応は薄い。それよりも周りにいた女子の一人が驚いた様子だった。

「あ……、あなたがナルト大橋? え、なんで男なの?」
「は?」

目の大きい、厚い唇をした美人が僕を見た。
派手な顔をした彼女は巻き毛を胸元まで垂らしており、スカートは絶妙な短さで調整されており、香水がふんわりと香ってくる。威圧的な女子高生だった。八千草とは違うタイプの美人だ。
ギャル系の彼女は、僕に詰め寄った。

「ごめん、ツカオンは私なの。塚本花桜梨(つかもとかおり)。写真は私の彼の物なの」
「えーっと?? ツカオンは君なんだな。でも、今、台詞に誤りがなかったか? 写真は彼ではなく彼女だったが」
「ううん。間違ってない。まあ『私の彼女』の方がヨリ正しいかなあ」
「つまり、カップルってわけね! いいじゃん!」

僕よりも数段、理解力が高い八千草が嬉しそうに言った。
重々しくため息をつく。
「女子校ってのは、そういうことがあり得るのはファンタジーだと思っていた。友情より1.5倍増しにしただけじゃないのか?」
「100倍100倍☆ ねー!」
「ねー」
顔色の悪いツカオン……ではなく、彼氏である女子が棒読みで頷いた。
山田紀子は親友だったはずだから、女の子であることを知っていたはずだ。まさか、ハメられた?

「どうして、他人の写真を送ったの?」
八千草が問う。すると、彼(女子だけど)が小さな声で言った。

「私の顔は正直、男子受けはしません。女子受けはしますが。塚本と私は当時、付き合う前で、ただの友人同士でした。塚本は彼氏募集中でネット上で探していたところで、あなたと意気投合。でも、自分に付き合うに足るかどうか、判断しかねたのです。そこで、友人である私は写真を送ってみるといいと提案しました」
「だってー私の顔はー絶対、即会おうってなるんだもん」

塚本の台詞に僕はうなづけない。僕は美人であっても好きにならない自信がある。
八千草にどきっ、とする瞬間がまったくないのだから、塚本花桜梨でも平気なはずだ。
断じて不能ではないぞ?


「あまり好ましくない顔の女子と会ってもいい、付き合ってもいいと言ってくれるならそれは本物ではないでしょうか。けれど、私の意図はそこにはありません。私は塚本と誰とも付き合って欲しくなかった。ナルト大橋がツイッターから消えて小躍りしましたよ……がっかりしていた塚本に私は告白しました」
「それで付き合うことにしたのよ、ねー!」
「ねー」
「ねー、じゃねえ! つまり僕は謝る必要まったくナッシングだよな!? どうして、ここまで来て公衆の面前で過去の黒歴史をほじくり返してナルト大橋を馬鹿にされなきゃならないんだ!?」

ついに僕は切れた。びっくりして目を見開く彼女たち。
すると、クラスにいた女子たちが一気にほえたてた。

「ベストカップル誕生に貢献できたんだからいいじゃんかよー!」
「お前は二人のことをまったく知らないくせにー!」
「そうだ、そうだー!」

最後は八千草まで加わっている。お前はどっちの味方だ。

「山田紀子はどうして、終わったことをほじくり返すために、嘘をついたんだ。カップル誕生したなら僕は許されるはずだ」
「成瀬が嫌いだったんじゃないの。なんか、ヘボイところとか」
「どういう意味だ」

八千草は根本的に僕のことを嫌っているんじゃないか。最近、そう感じる。

「山田紀子って、あの山田さんかな」
塚本花桜梨が唇に指をたてて思い出すような仕草をした。塚本の彼女がうなづいた。

「君は……山田紀子には恨まれているんじゃないかな。なんだって中学時代に山田は私に恋をしていたようだ。告白されたこともある。塚本と私がくっつく理由を与えた君に逆恨みしているのかもしれない」
「は?!」

僕はもう何が何だか信じられなくなっていた。今の彼氏彼女の事情話にはすべて女しか出てきていないのだからな。

「まあ、すべて成瀬が悪いってことで一件落着じゃない?」
八千草が軽く言った一言に「そうよ、そうよ」と同意の言葉があちこちに上がる。

たぶん……つうか、きっと、こいつは僕のことが嫌いなんだな。もう決定だな。
僕は遠い目をして教室に入ってきた人と目があった。
女教師だった。

「はいはいー授業始めるわよー」
座り始める女子たち。僕と八千草は、一礼して教室を後にした(冷静に)後ろから先生が「ちょ、待って今のかわいい女の子誰!? モデル!?」とか言い出したので八千草は、

「捕まえてごらんなさああああい!」
と言って廊下を疾走しだした。



早く、帰ろうよ。




つづく?
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