さよならメッセンジャー「さよならを言うのは」

「ってわけでさープライドの高い女なわけよ」
黒いスーツを着たにこやかな笑みを浮かべた青年は目の前の自分よりも更に若い学ランを着た少年の愚痴を聞きながら書類をそろえていく。
「お別れエージェンシー」はお金さえ払えば未成年でも注文を受けた。恋をして、別れることになって、それを相手に直接伝えることができない……その条件させそろえば立派な客だ。
「しかし、どうして直接別れを切り出せないんです?」
「あんた俺の話きいてなかったろ。だからーあいつはプライド高い女なわけよ。そして俺もプライドが高いわけよ」
「はいはい」
「お互い似たもの同士なわけで振られたことがない。俺とあいつはもう終わりな雰囲気はわかってんだけど会えばお互いケンカ越しになって自分が振ったことにするために血を見ることになるはずだ。相手に振られることほど屈辱的なものはないからな」
「だから相手よりも先に弊社をご利用になり『さよなら』に先手を打ちたいとこういうわけですね」
「そゆこと」

少年は機嫌良さそうにソファに深く腰掛けた。自分よりも年若い少年の態度に別段気にした風もなくさよならメッセンジャーの男はふむふむと頷いた。少年は振られたことがないと言っていたが、なるほどシャープな顎にさらさらの校則に触れるだろう茶髪、大きな目、長いまつげはモテそうだった。
「それでは、お尋ねします。さよならプランは電話と代理人の訪問による直接と、二つありますがいかがなさいますか。あと相手に警告のみするイエローカードもございます」
「警告ってのは?」
「相手の嫌なところを三つあげていただき、お別れする手前ですよーとイエローカードを出すことを言います」

少年は腕を組んで悩む風にしてからバンっと机をたたいた。
「直接相手に『さよなら』って言ってくれ!」
「わかりました。では文面はいかがなさいま――」

本題に入ろうとしたところで、事務所の扉が勢いよく開いた。中年の男性が入り込んできて高校生の男はびっくりしたように見ている。一瞬、しんとなったが笑みを浮かべた青年の間抜けな声があたりに響く。
「あ、所長ー。どうしたんですか、そんなに焦って」
「探したよ。君がタカラジマ君だね」
「そうですが」
さよならメッセンジャーの男の声は無視して所長と呼ばれた中年の男は高校生の少年、タカラジマ君の目の前に立った。そして言った。
「君に、コトブキさんのメッセージを伝える――」
「あーーーっっ!!」

所長の声をさえぎり、青年が大声を張り上げた。所長、は目をすがめた。
「なんだ、シジマ。邪魔しないでくれるかな」
「ダメです。クライアントは振られずに先に相手を振りたいわけです。私がコトブキさんの前に言って彼のメッセージを言うまで待っていただけませんか?」
「だーめ。こっちだって彼女の希望で先に『さよなら』って言いたいんだよ。彼女は君に――」
「うわっ! タカラジマ君所長の口を押さえるんです!」
「は、はいっ!」
つい、シジマの必死な形相に横柄な態度をとっていたはずの彼も敬語で返事をしてしまう。
「君たち、若造二人が勝てると思っているのかー!」
「早く口を押さえてっ」

所長、タカラジマ君、シジマ三人は何のために戦っているのかわからなくなったが自分の中のプライドにかけて争っていた。
「もう、こうなりゃ自棄です。コトブキさんには電話でメッセージを伝えます!」
「待て、シジマ! 私が先だ! ふぐふぐっ……!」
タカラジマ君が所長の口を押さえて、所長がシジマの携帯を押す指を押さえようとあがく。
そして言ったのは、ほぼ同時だった。

『さよーなら!』




おわり。
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